高館の中、
「もはや、これまでか」義経はうめいている。
「義経様、どうぞ、ご準備のほうを」
東大寺闇法師、十蔵が、義経そっくりの顔で言う。十蔵は西行の命令で、この地にいる。
「十蔵、私だけが助かる訳にはいかん。私を信じてついてきてくれた郎党たちも、助けてくれ」
「義経様、それは無理というもの」
義経の回りには弁慶始め郎党たちが、取り囲んでいる。皆、覚悟を決めていた。
「どうぞ義経様、お逃げくだされ。我々はここで討ち死にし申す」
弁慶が涙ながらに言う。
「そうです。それが日の本のため」他の郎党も続けた。
「どうか頼朝殿に無念をはらされよ」
「弁慶、自分だけいい子になるなよ」
「よろしいですか。義経様は我々の宝。いえ、この日本の黄金じゃ、どうか生
き延びてくだされ」