今年五七歳になった法師が、山道を登っている。京都・鞍馬山僧正ヶ谷。木の根が血管のように山肌に現れている。
激しく武者修行をする牛若の前に、法師が一人現れていた。かぶりもので牛若には顔が見えない。
「牛若殿、元気であらせられるか」
「はっ、あなた様は」
「名乗るほどの者ではない。いずれ私の正体わかりもうそう。いわば、牛若殿の未来にかけておるものだ。いかがかな、牛若殿、武術の方は上達いたしましたか」
その問に不審な顔で牛若は答えた。
「はっ、鬼一法眼様の指導よろしきを得て、ますます励んでおります」
「お師匠、見たこともない法師が、私を激励されましたが…」不思議そうな表情で述べた。 鬼一はかすかにほほ笑んで「ふふう、牛若、あちこちにお前の守護神がおるようじゃのう」
「あの方は、私の守護神ですか」
「どうやら、そのようだのう」
牛若は、首をひねる。その姿を見て、鬼一法眼は笑っていた。