義経が奥州平泉で襲撃されて十年がすぎている。義行は、義経のことを、日々の勉学に聞き及んではいた。
「この俺があなた様のために、亡くなられた西行法師殿より預かっているものがござる。それをお渡ししよう。また和子の存在を知っている者が、京に一人おられた」
「おられたと。その方も…」
「そうじゃ、七年前にお隠れなられた後白河法皇じゃ。その方の指令がまだ生きておる。頼朝をあやめられよと」
「頼朝をあやめると…」
「じゃが、よーく聞いてくだされ。源頼朝殿、殺すも自在じゃ。なぜなら、この鬼一法眼、全国に散らばる山伏の組織を握っております。和子を鎌倉に行かせるは自在。が、西行殿、そして義経殿が義行に望んでおったことは、和子が平和な一生を終えられることです。また平和な郷を作られることです。この書状には奥州藤原氏よりの沙金のありか書いてございます」