ウスバカゲロウ

作者s

ここは江戸吉原、花魁たちの一夜限りの恋物語が今宵も繰り広げられる――――。彼女たちによる、甘く切ない恋愛オムニバスストーリー。






毎晩、


安っぽく嘘だらけの愛が飛び交う





この世界にいると


本当の自分が分からなくなると


誰かが言っていたけど




本当の自分なんてやつは


もともといないじゃないかと


姉やは言った






銭が飛び交う布団の上で


欲にまみれた野蛮な手に抱かれ


信じられるものなど


何一つなかった





でも。



それでも私たちは


心のどこかで愛を求めていたし


信じることを完全に忘れたわけではなかった




一晩限りの儚く散る愛でも、


縋りつきたくなる夜があった。






ウスバカゲロウ