槙
解放
『全力を傾けてやる気持ちがあるなら、約束したっていいんだ、いくらでも』
物語の終盤へ踏み出す広香へ向けられた言葉。
それは守れないことを恐れ、約束しないことで完結した僕を解放してくれたような気がしました。
美しい言葉が溢れ、短文の中に矢楚たちが見ている美しい情景を、思いと共に共有することができる。
そして美しいだけでは終わらない。先程述べたように、彼らの成長を通して僕らまでをも成長させ、自ら禁じてきたものを解放してくれるのです。
注目すべきはやはり柴本亜希の存在でしょう。
艶やかな『黒髪』の強烈なイメージがつく彼女がいてこそ、光の子がより鮮明に僕の心にともるのです。
光しかない世界に『光』の概念はありません。
黒があって光があり、同様に崇高で気高い黒があってこそ、矢楚と広香の崇高で美しい光をひしひしと感じることができたのではないか思います。
もちろん、黒と呼べるのは亜希だけではありません。描くことは容易かった夢。思い通りにならない現実。家庭状況。他にも多くあるでしょう。
しかし、それと同じだけ、明るい未来を思う光が文中に煌めいているのです。