作品コメント
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- 槙
解放
『全力を傾けてやる気持ちがあるなら、約束したっていいんだ、いくらでも』
物語の終盤へ踏み出す広香へ向けられた言葉。
それは守れないことを恐れ、約束しないことで完結した僕を解放してくれたような気がしました。
美しい言葉が溢れ、短文の中に矢楚たちが見ている美しい情景を、思いと共に共有することができる。
そして美しいだけでは終わらない。先程述べたように、彼らの成長を通して僕らまでをも成長させ、自ら禁じてきたものを解放してくれるのです。
注目すべきはやはり柴本亜希の存在でしょう。
艶やかな『黒髪』の強烈なイメージがつく彼女がいてこそ、光の子がより鮮明に僕の心にともるのです。
光しかない世界に『光』の概念はありません。
黒があって光があり、同様に崇高で気高い黒があってこそ、矢楚と広香の崇高で美しい光をひしひしと感じることができたのではないか思います。
もちろん、黒と呼べるのは亜希だけではありません。描くことは容易かった夢。思い通りにならない現実。家庭状況。他にも多くあるでしょう。
しかし、それと同じだけ、明るい未来を思う光が文中に煌めいているのです。 - さとみなおき
美しい人生
とても美しい物語です。
嵐の海のように困難の多い人生にあって、遠くに輝く光を見失わずに、美しく正しく生きていこうとする、矢楚と広香。
お互いを思いやり、高めあう、理想の恋愛がここにあります。
二人の主人公はもちろんのこと、彼らを取り巻く人々にもそれぞれの人生があり、皆がその複雑さに耐えながら生きている。
時に道に迷いながらも、導きの星を探して、見つけて、それに向かって歩き続けて。
この長い道のりにあって、それができる者だけが人生を美しくすることができるのだと、この物語は教えてくれています。
テーマ、ストーリーが魅力的であるのはもちろんのこと、文章、構成という技巧面においても感嘆させられます。
倒置と比喩を多用した詩のように美しい文章の中に、幼い彼らの真っ直ぐな言葉が貴重な原石のように置かれて、読むひとの胸を打つ。
名作です。
多くの方々に読まれる作品になることを、願ってやみません。