酒月柚夜
世界の当たり前とされてきた虚無感を題材にしたストーリー。
迎えに行くから。母がそう言った。幼かった翔は一人公園で母を待った。日が暮れる。現れない母親。積もる不安。気づいた、公園に入ってくる煙。
走って、走って。家の前に沢山の野次馬。燃えている家。近所のおばさんが、抱きしめてくる。隣に、不気味に笑う男。
『なんで…笑うの…』
出てきた母親の死体。興奮して、携帯で写真を撮る大人達は皆笑ってる――。
『誰が死のうと、世界は普通に回っている。何事もなかったかのように』そんな、一度は誰もが感じたことがあると思われる、当たり前とされてきた虚無感を題材にした物語。
主人公である翔が復讐の為に殺し屋になるというお話ですが、ただ暗いわけではない。揺るがない題としっかりとした文章。そこで紡がれる儚く虚しく、だけど優しい物語。心に響くものがあり、殺し屋の物語が苦手だという方にもオススメしたい作品です。
本格的だけどどこか異様。そんな設定がこの作品の独特な雰囲気を醸し出しているのだと思います。
殺し屋であるが故、外の人間と関わりを持ちたがらない翔が、これからどんな形で“世界”というものを感じていくのか。見所満載の小説です。