錬徒利広
自分の存在が侵される。
これはいい。
人という存在を侵される、現代社会における最大の問題点を克明に切り落とした良作であると言える。
今、ヒトの存在というのは科学の進歩によって窮地に立たされている、と私は思う。私の小説にも時々書くが、「クローン技術」というのは、技術の繁栄に大きく貢献していると共に、ヒトをヒトでないものにしてしまうという危険性を孕んでいる。
この物語がまさにそうだ。自分としての存在が危うくなる日、その恐ろしさを訴えかける作品である。
まだ「友達との繋がり」や「母子の関係」について深く掘り下げてほしい部分はある。
だがそれを凌駕する何かが、この小説からは感じ取れる。
ケータイ小説によく見受けられる、スプラッタや霊体などといった要素とは違う怖さがここにある。まさにモダンホラーの理想形と言えるのではないか。