うのたろう
物語にのみこまれます
良作に対し言葉がちゃちになってしまいますが。
「正統派の純文学」といえばわかりやすいでしょうか。
この作品には、しずかな起承転結だけが存在します。
しずかにはじまった物語がしずかに幕をとじていく。
ただそれだけ。
ですが、それがおもしろい。
作中では、ねこであるナナが、ねこらしい(もっともそれを定義するのは人間なのですが)行動をとります。
その姿が滑稽に描かれています。
ですが。
おおまじめに痴話げんかをする主人とその恋人も、ナナから見ればさぞ滑稽なことでしょう。
また物語のつくりがうまい。
この作品の一行目を読んだ瞬間。
すこし古びた洋室に迷いこんだような錯覚におちいります。
そこでくりひろげられる、人間の痴話げんかと、ねこの行動。
自分が誰の気持ちになるではなく、ただ一心に、そのなりゆきを見つめるしかできなくなります。
作者さまの意図により、傍観者としてこの物語に参加するわれわれ読者も、もしかしたらナナのような、ねこになっているのかもしれません。
すごい。
おすすめです。