うのたろう
夢を叶えた鬼
まずは、ひじょうに読みやすい文章であるということが特筆すべき点だ。
文章じたいはかた苦しいのだが、ひとつもつかえず、すらすら読める。
むずかしい言葉をつかっているのに、それをすこしも感じさせない。
物語は鬼である「その人」がよみがえるシーンからはじまる。
「その人」には記憶がない。
ゼロからはじまる物語が9ページという短いなかで、数字を積みかさね極彩色の色をまとっていく。
その感覚が物語の暗いテイストとあいまって、いい意味での心地悪さ(気味の悪さともいう)をかもしだしている。
正直、一度ななめ読みをしただけでは読者はぼう然とする以外にできないだろう。
この物語は二度三度とくり返し読むことで、おぼろげながら全体像がようやく見える。
文字のひとつひとつを拾っていくことで、さらに複雑さを増していくからだ。
かくいう自分も三度読み返し、ようやくレヴューが書けるという段階にたどりつけた。
個人的な解釈では、ラストシーンで夢を叶えた「その人」に暗いながらの希望を見ることができた。
ぜひとも何度も読むことをおすすめする、そんな短編小説だ。