漆黒の夜に満月が一つ。
闇色と金色に撫でられた川のせせらぎ、僕の髪に触れた穏やかな風、身を乗り出し両手を着いた冷たい手摺の感触。天への導きが、自らの死を選ぶ滑稽な僕を誘う。
おいでよ、
残酷な日々に背いた敗者。
おいでよ、
天国に憧れを抱いた弱者。
おいでよ、
自ら命を殺める卑怯者。
手摺に片足を着いた午後二十一時、背に降り注いだ透明感のある声質が僕の意志を呼び止めた。街灯に照らされ微笑む君は、儚き幻影のように、あと一秒で消えてしまいそうだった。
君に出逢い、死への導きからも苦痛な毎日からも解放された僕は、この世で一番優しい天使の存在を知った。
けれど、すべて偽りだと気づいた頃にはもう遅い。羽は枯れ、仮面は剥れてしまった。
天使の微笑みを浮かべていても、君の心の中には…この世で一番悲しい悪魔が宿る。