しき

じんわりと切なく哀しい
透明感のあるきれいな文章がこの切なくも不思議な世界を彩り、ぐいぐい物語の中に引き込まれていきました。



「死んだら誰か泣いてくれるのかな?」


この一文にはっとさせられました。


家族ではない他人。

そんな誰かが自分の死を悲しんでくれる、泣いてくれるということは、自分の生きた意味を示す証のようなもの。

裏を返せばそういう人がいてくれると思えばこそ、私たちは生に執着できるのかもしれません。


ヒジリさんは笑い上戸なのか前半は笑顔が溢れていた物語。

けれど静かに少しずつ語られるヒジリさんの言葉に、気がつくと切なさが寄り添っていて、読後にはじんわりと悲しみがわたしを包み込んでいました。

でも救いようのない悲恋ではなくて、またもう一度二人は出会えることを信じさせてくれる結末が物語の余韻になって、より印象深い作品になっていると思います。