現在から九百万年後の世界を舞台に、世界のあるべき姿とは何か、向かうべき理想とは何かを探求していくジュブナイル。
九百万年後の未来の地にて、人類は"鴉"に飼い殺されていた。カラスという鳥類に過ぎなかった生命体は、時を経て進化を繰り返し、姿を変化させ、より高い知能を有し、人類に取って代わるまでになった。(カラスが進化を遂げた未来の姿を、以下鴉と呼ぶ)
鴉は人間の少年ほどの大きさの体躯を持つ二足歩行の生命体だが、足には鉤爪、両腕は大きな翼になっており指がない。その為、発達した科学技術で産み出したアームを装着し、自在に操る。人類は、鴉の使うアームの整備や、鴉が苦手な重労働などを仕事として割り振られている。
理性的で勤勉、合理主義な鴉は、かつて人がユートピアと呼んだ社会に相応しい、人工的で規則正しく、滞ることがなく、徹頭徹尾合理的な統治を行なっている。そんな鴉の支配下にて、並大抵の人間は過不足無く生を紡いでいた。
しかし、人間の中には「並大抵」から焙れる者がいる。鴉の指揮する理想的な社会から焙れた人間達は、人の居住区画から追放され、"ふきだまり"と呼ばれる無秩序な場所へと隔離される。そんなふきだまりに新しく隔離された少年、ラズは、人間が鴉の統治下にある世界の現状に異を唱え、それを打開せんと同志を募り、反逆の狼煙をあげる。
これは、生き物が統べる社会を問う、どうしようもなく愚かな物語。
ラズ達は鴉と敵対しながら各地を転々とする。その中で鴉や人間以外にも、かつて鴉との勢力争いで敗れた"梟"や鴉から身を隠した人間の一派である"人魚"といった、鴉とは別の種族、社会を垣間見る。迷い、悩み、それでもどこかへ向かいながら、少年はどんな世界を導きだすのか。