50年前に由緒正しき魔王ゴアがイデカエによって殺されました。
魔王の死後、その地位を継いだのは息子のロッズです。
しかし彼は、魔王としてはあまりにも力不足でした。
先代と比べて見る影もない彼の元からは配下の魔物たちも離れていき、今となってはひとりぼっちの魔王として君臨しています。
ところがこの弱い魔王は無限の生命を有しておりました。冒険者の手によって何度殺されても、翌日には復活を遂げてしまいます。
殺されては蘇り、蘇っては殺されて……。まさにロッズにとっては地獄のような日々でした。
ところがある日、ロッズに転機が訪れます。
いつものように魔王城へひとりの冒険者がやってきます。彼の名は勇者アルサード。
アルサードは他の冒険者たちと同様にいとも簡単に魔王城を攻略しますが、ロッズと出会ったとき彼は困惑してしまいます。
彼の目に映るのは蹂躙され尽くしたボロボロの少年の姿。イメージしていた魔王像とはあまりにもかけ離れていたからです。
そんな痛ましい姿でありながらもロッズは自身の役割を演じるため、気丈に魔王として振る舞います。
その様子を見て、アルサードの心のなかには形容しがたい感情が生まれました。
今そこにいるのは悪しき存在であるはずの魔王ロッズ。彼を倒せば報酬と名誉が手に入ります。
しかし、本当にそうしてしまっていいのだろうか……俺はなにか間違っていないか……。
アルサードは剣を振るうのを躊躇い小さくため息をつくと、ロッズを放置して来た道を戻ってしまうのでした。
これがロッズとアルサードの最初の出会いであり、この先ふたりの運命は大きく動いていきます。