ただ煙草が吸いたいから、という理由だけで陽射し溢れる平日真っ昼間の公園にいた。夏の盛りに後悔ばかりを胸に紫煙を燻らせていると、ふと聞こえてきたのは場違いにも柔らかな子どもの声だった。大きすぎるTシャツに身を包み、こちらをじっと静かに見つめてくる視線は少女とも、少年とも取れる。
ふっくらと丸みを帯びた頬に降り注ぐ光は現実との境目を無くし、それなのに子どもとの間に挟まれた深い紺色の箱を撫ぜる指先は自分と変わらない大人の装いをしていた。どうして学校に行っていないのだ、と問いかける声色に力は入らず、名前も付けられないような雑談ばかりが繰り返されていく。
警戒心を抱かない子どもを不思議に思えども、細く艶やかな髪の毛に隠された首筋に何が見えてしまえども、自分に出来ることは何もない。居心地の悪いような、座りの良いような、言葉には表せない自分たちの周りには、ひっそりと流れていく真っ白い煙があるだけだ。
晴れた木曜日の昼間に、たったの一時間を共有するのが日課になっていた。父親に買ってもらったのだと嬉しそうにタンクトップの裾を握る少女に、大人ぶって似合っていると吐き出せたのは褒めてやりたい。気に入ったらしい輪っかを縁取った煙に、百四十円の何処にでもあるバニラアイス。少女から与えられたのは何の変哲もない真っ黒い髪ゴムで、遠慮したくせにいつだって手首に巻き付けていた。
容赦のない陽射しの下で、言葉少なに交わす時間が当てのない息抜きになっている。自覚したのは少女に何も出来ない自分を思い知ったあとで、少しだけドーナツに似た煙を作るのが上手くなった頃だった。
だけれど、夏休みも終わりに差し掛かったある日、子どもは公園に姿を現さなかった。きっと、父親が家にいたのだろう。言い聞かせるように、重くなった携帯用の灰皿をポケットに潰す。
橙色に染まる住宅街を抜けながら横目に映ったのは、懐かしいプラスチック製の植木鉢だった。
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自分の中で大好きで大切な作品なので、数年前のものですが上げました。
※内容として近親相姦や虐待等を含んでおりますが、ひとつの創作物として盛り込んでおります。
助長するつもりは一切御座いませんし、苦手な方は閲覧をお控えください。