『揺れるドレス』
近所の小さな湖が枯渇してしまうくらいに暑い夏の日。
生ぬるい風がレースカーテンをふわふわと揺らす。
ドレスの裾みたいだななんて思いながら、冷房の壊れた蒸し暑い部屋でただひたすらぼんやりと窓越しの空を眺める。
───あぁ、今、隣に君が居てくれたらなぁ。
こんなにどうしようもなくつまらない昼下がりも、きっと何にも変えられない素敵なひとときになるだろうに。
どうして僕はあの日の君を引き止めなかったんだろうか。
君はいつも通りだったし、"喉が乾いたね"っていうのと同じくらい、何でもないことのように"私達もう終わりにしようね"なんて言うから。
そんな言い方するから、僕は何も言えなかったんだ。
だけど、終わりにしたくないって、一言言えたらよかったな」
そういえば、君は出ていく間際にこう言ったな。
「こんな時さえも何も言ってくれないんだね。私のこと…やっぱり大切じゃないんだね」
そんなことない、大切だったさ、今だって特別だと思ってる。
でも、それは君には伝わらなくて、君はもう居なくて。
こんなどうしようもない僕だけど、君を想う気持ちだけは本物だったんだ。
「…っ、あいたい」
君が居なくなって何日か経って、やっと出た小さな一言は、忙しなく鳴き続ける蝉の声にあっさりと飲み込まれた。
創作お題スロット
枯渇/カーテン/素敵