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フルーツロール

フルーツロール🍎です(*´∀`)🌹

名前の由来は、“その時食べたかったから”です。

どうぞよろしくお願い致しますm(__)m

小説は基本、ピカレクスロマン🔫の要素が強く、波瀾万丈な物語。そこから少しずつ、幸せを勝ち取っていくような物語だと思います🔫🍀

よろしかったら、フルーツロールの物語を、楽しんで頂けたらと思いますm(__)m

第十五回ブログで感謝企画③🐚🎇

※第十五回ブログで感謝企画②🐚🎇の続きです。下記からメインストーリーを再開致します↓
―――*


『海龍?…―』と、桃珊が問い掛ける。すると何やら胸を打たれたらしく、片手で胸を押さえながらバッと海龍が振り返った。そして悶絶しながら死にそうな声で『あの健気で可愛い生き物は何だっ…』と言っている。

桃珊は苦しみながらフラりとした海龍のことを、そっと支えた。すると『ああ…ごめん…』と言いながら、海龍も桃珊の肩に掴まる…―

…ちなみにそれがサンダーソニアには、〝“姫百合に心惹かれた”と言ったそばから、他の女に抱き付いているクソ野郎〞に見えていたところである。

そして海龍は桃珊に掴まりながら『ああ…ダメだ可愛い…サンダーソニアを助けに来たと言うのか…何て可愛らしく優しい娘…強く優しく、なのに脆そうだ…守ってやりたい…』などとブツブツと言っている。

〝こんなこの人は初めて見た〟と、桃珊と珠鈴は目を丸くしていた。
すると珠鈴がハッとしたように桃珊に『お兄様の周りの女性ときたら、お兄様に気に入られたくて話を合わせるし、皆か弱いふりをしているから!!』と。桃珊も『ええ。そうね。だから余計に、姫百合さんがとても頼もしく見えているのでしょうね』と、そう言って頷いた。

…―そして海龍は気持ちを落ち着かせると、姫百合へと向き直った。


海「それは誤解だ。脅してなどいない」


姫「っ?!」


サ「はぁ?ある意味オレは脅されたが?脅迫だ脅迫!略奪の意思を示しただろう!」


姫「ッ!!?」


海「人聞きの悪い事を!止めてくれ!…――違う!姫百合、キミにもう一度会いたくて来た!」


姫「昨日謝りましたっっ…」


するとサンダーソニアが『海龍お前もう帰れっ!』と、ガッと海龍の腕を掴んだ。だが海龍はサンダーソニアの方へと見向きもしない。姫百合を真っ直ぐに見ながら、また『違うんだ!』と。ちなみにそう言いながら、片手でサンダーソニアを払い除けている。


海「違うんだ…謝罪などいらない…ただキミに会いたくて来た…」


姫「それは、何故ですか?」


海「それはだな…――」


姫「はい…」


海姫「「……――」」


〝キミがモモンガみたいでカワイイから!!…――そうだけど違ーう!!何故だ…!!この娘の前だと気のきいた言葉が出てこないっ…!!〞

姫百合はキョトンとしながら、不思議そうに海龍を見上げている。

先ほどまではこちらに啖呵を切ってきていたのに、また姫百合はこうやって、丸い目をもっと丸くしながら見上げてくる。…―


海「何なんだっ…コロコロと表情が変わり、愛らしい…オレの語彙力が低下してしまう程に…真っ直ぐな正義感もとても魅力的だった…」


姫「っ!!…」


桃珊と珠鈴は目をパチパチとさせながら海龍を眺めている。『あら?好意を示すどころか、あれは勢いあまって告白していますわね~』『お兄様に余裕がな~い』『緊張して口説き文句が出てこなかったのでしょう。告白してしまっていますわね~!!』と、そんな話をしながら。

そしてサンダーソニアは『オレの目の前でオレの許嫁に迫るとは良い度胸だっ!あの野郎~!』と、今にも殴りに行きそうな勢いである。…―だがすると茜が『〝仮〞でありましょう!サンダーソニア様、静かにしていて下さい!!邪魔しないで下さいね!?いいところなのですっ!!』と、熱くなっている。
サンダーソニアの乱入を許さぬ見守り隊の茜であった。

そして姫百合は、目を丸くしながら口をあんぐりと開けてしまっている。


海「珠女神、沙海龍…キミに心を惹かれてしまった。…急かしはしない。少しずつでもいいから、良ければ…――」


姫「っ…あの……」


海「………」


姫「……あのそれは…――と、取り巻きへの誘いですか??…」


海「っ?!…なぜそう思う?!」


姫「っ?!な、なぜって…!!」


〝なぜだ…!!〟と、海龍はショックで顔色を悪くしている。姫百合はキョトンと…――
そして姫百合と海龍は『私は私1人だけを大切にしてくれる人ではないと無理ですので…』『昨日共にいた者たち、オレは誰1人にも愛を囁いてはいない!』『…私には分かりません…』『もちろん情を交わしてもいなくてだな…!オレは遊び人ではないぞ!』『昨日の取り巻きを見ているので、信じるのが難しいのですっ…!』と。
姫百合からしたなら、やはり海龍は理解の外の人間である。

…――そしてそんな様子を眺めながら、桃珊はため息をついていた。


桃「あの人が女性に優しくするのは珠女神への信仰心故。群がる女性を蹴散らさないのもそれ故です。“そういうのが嫌だ”と仰る女性には、海龍は似合いません」


珠「…珠女神への信仰心がある限り、お兄様もそこは譲れませんしね…」


桃「ええ。――あの人は理解のない人とは一緒になれないだろうし、それから、嫉妬をしたり悲しんだりする女性も、あの人には似合いませんね」


珠「……難しいですわね。周りに女性は沢山いるのに、お兄様に似合う女性はなかなかいません…」


珠鈴はため息混じりに『一体どこにいるのでしょうね?』と、そう話して桃珊を見た。…―だがするとそこで桃珊が意味深にニコリと笑顔を作っているのだった。まるで〝あの人に似合う器のある女は、私ですよ〟とでも言っているような笑みである。〝な、なるほど…〟と、察した珠鈴であった。

…―そしてやはり、どうやら海龍と姫百合はいろいろ噛み合わないようである…――


海「オレのどこが好かない?やはり、オレが女性をたくさん連れていたからなのか?…ならば容姿は、どのような男が好きなのだ?!」


姫「女性よりも美意識の高そうな男性は苦手ですっ…!自分にコンプレックスを感じてしまうから…!」


海「っ?!…〝美〟とは性別を問うものではないであろう?なのでそれはコンプレックスになり得るべきではない」


姫「けれど私は感じてしまうのです…!嫌です!自分を惨めに感じるから!…っ…何なのですか海龍…!?私はアナタの白真珠のような肌と、黒真珠のような髪に嫉妬しております…!!」


海「なぜ“美しい”と好いてくれない?!なぜ嫉妬に走った!?」


姫「私は男性に、身嗜みと“ある程度”のスキンケア程しか求めておりません。それから“美しい”よりも、“カッコいい”を目指している男性の方が好みですわ…!」


海「“ある程度”などでは嫌だ!パックもするし、美容成分をたっぷり溶かした風呂にも毎日浸かる!」


姫「ホラね!私よりも女子っ!!」


そして『本当に噛み合いませんね~!』『姫百合さんの好みに合わせたなら、お兄様のアイデンティティが失われてしまいますわ!』と、そう話しながら桃珊と珠鈴は、まったりとアイスティーを飲んでいるのだった。


姫「とにかく私は、“美意識は身嗜み程度に”くらいの男性の方が良いです…!美しいよりもカッコいい!…あとそうですね…私は男性なら腕やすねは、別にスベスベでなくてもぜんぜん良くて…」


海「〝全身脱毛してあるので生えん〟」


姫海「「………――」」


姫「……。あ、アナタはそれで良いのですよ?あくまでも私の個人的な感覚の話です…!ただアナタは私の好みでは…――」


海「だが好きだ姫百合!!」


姫「ごめんなさぁ~い!!」


〝こうして正式にフラれた〞

心からホッとしたサンダーソニアであった。

桃珊はテーブルに頬杖を突きながら『あらあら』と、素っ気ない顔をしながら言っている。
そして珠鈴は『あんなに直球なお兄様は初めて見ましたわ!不意に男らしいお兄様素敵!!』と、目を輝かせている。どうやら、お兄様ならば何でも素敵に見えるらしい。


――そしてその頃コヨーテは、庭で不審な女を見付けたところであった。

生け垣の下に身を滑り込ませるようにしながら、不審な女…―“雨桐”がまた海龍を偵察している。

コヨーテは雨桐に気が付かれぬようにその生け垣の側へと行くと、そこでしゃがみ込んだ。


「キミ、何をしている?」


本当は〝ブラッド フラワーの庭で、お前こそ何をしている〟と言ったところなのだが、雨桐はエンジェルのコヨーテだとは気が付いていないようである。


「っ!?何でもありません!怪しい者では…――!」


「…あれ、キミ中国の子?もしかして海龍の連れか?」


「私が海龍の連れ?!冗談止して!なぜそうなるのですか!取り巻きの一人などと一緒にしないで下さい!」


「?…だがその話の感じ、やはり海龍関係なんだろう?連れじゃないのか?」


「断じて海龍の連れなどではありません!遠巻きから見ているだけです!」(偵察中)


「っ?!…」


〝それってストーカーじゃねぇの?!〟と思い、思わず後退りしたコヨーテであった。

雨桐が海龍を見ているのは、そう〝子涵の為〞である。

そして雨桐はコヨーテに向かって『この事は秘密でお願いします…気が付かれたらやりづらくなるので…ああ、私はあの人(子涵)に、こんな事しかしてやれない…』と、そう話し懇願した。

完全に海龍のストーカーだと思い込んでいるコヨーテは、雨桐の言った“あの人”を“海龍”の事だと思って疑わない。
〝これは重症だ…〟と、コヨーテはますます後退りする。
そして〝…本人に伝えるにも、これは勇気がいるしな…〟と、何も見ていないフリをし雨桐に『わかった…秘密にしよう…』と、そう返したのだった。


――そしてその頃アチラでは、サンダーソニアが海龍を追い帰そうと、その背を押している。


サ「もう気が済んだだろうよ!帰れ帰れ!人の許嫁に手を出そうとするから、ああやって無惨にフラれるのだ!様ぁ見ろ!」


海「“仮”であろう!待て待て押すな!緊張していきなり想いを打ち明けてしまったのだ…!互いに一目惚れでもしていない限りは、あれではフラれて当然だ!リベンジ!これからゆっくりと親睦を深める!」


サ「潔く身を引け!さっさと海の向こうへ帰れ!…―さもないと深海へと帰して、テメェをテメェの珠女神様への捧げもんにすんぞ!!」


海「っ?!愚弄するな!珠女神は贄など好まん!何て野蛮な発想!…―〝大地に抱かれ野に咲く花となれ!!色付く花弁は一層と美しいのだろうな!!〞」


サ「?な、何々?…野に咲く花となれ?花弁?あ?何だその、新米女優を開花させようとするプロデューサーのようなセリフは…」


海「愚弄するなと言ったであろう~!!お前が珠女神をネタに侮辱したので、こちらもブラッド フラワーをネタにして侮辱してやったのだ~!!」


サ「はぁ?どこら辺がどう侮辱だったんだ?何か、勇気づけられているのかと思ったのだが…」


するとグリフォンが解読し『さっさとくたばって、大地に帰り野に咲く花の糧にでもなっていやがれ。テメェの血で花弁は一層と美しくなるのだろうな。様ぁ見やがれ。』と通訳する。
〝なるほど…〟と、一応納得したサンダーソニアであった。
――そしてその後も『野に咲く花となれ!小鳥も唄うだろう!』『いちいちヤンワリ綺麗な感じに言ってくんじゃねーぞコラ!?海に帰って鮫に食われてウ○コにでもなってろ!クソ野郎!』『何故こんな汚い言葉を吐ける男が姫百合の許嫁なのだ?!こんな奴にオレが負けたと言うのかー?!』と、ワチャワチャ喧嘩をしている二人であった。

そしてやはり、サンダーソニアは海龍を追い帰そうと、門の方へと向かってその背を押していく。『待てリベーンジ!!』と言いながら振り返っている海龍。


海「あ!そうであった!とっておきの贈り物を姫百合へと持ってきたのであった!」


サ「ダメだ!そういうの禁止だ!」


海「…――いや、“絶対に喜んでくれる筈”なのだが?――」


姫「海龍、私何も受け取れません」


サ「ホラな!好意と言えど、女性を困らしてはいけないだろう?“女尊の海龍”さっさと帰れ!」


だが海龍はかなり自信があるのか『いや、これは受け取るべき』と話す。姫百合は『いえ、何も』と。すると海龍が『良いから、まず見てみなさい』と…―


姫「ハ、海龍、本当に私は何も受け取れませn…――」


海「じゃーん!!〝お探しのゲス男の生け捕り~!!〞」


姫「キャー!!〝海龍ありがとうございますー!!〞」


海「うん。良かった。やはり喜んでくれた!あ、そうだ姫百合、良かったら、こっちも…――」


姫「っ?!ハ、海龍…探していたゲス男の生け捕りはさておき、本当に物とかは受け取れませn…――」


海「じゃーん!!〝ゲス男のアジトを記した地図~!!〞」


姫「キャー!!〝海龍ありがとうございますー!!〞」


サ「あ゛ぁ~?!もう終わり~!!ソレは確かにアリガトーー!!御苦労様っサヨウナラ~~!!海龍くんバイバーーイ!!もう来るなぁぁ~~!!」


こうして無事、海龍一行を追い出したサンダーソニアであった。


――こうしてこの夏のブラッド フラワーは、度々浮かれた珠女神のアンダーボスが『姫百合~♪遊びに来たぞ~♪』などと言いながら訪ねてくるという、とんでもない珍騒動に悩まされる事になるのだった。

…―だが〝そもそも当時まだ姫百合は嫁入りはしていなかったので、毎回ブラッド フラワーにいるとも限らない〞。

…―と言うことでサンダーソニアは、度々姫百合抜きで海龍とお茶をしなくてはいけない羽目になった。『会わせたくないからと、姫百合を隠しているのだろう!』『だから今日はいねぇって言ってるだろう!』――だからと言い、海龍を追い出し姫百合を探しに行かれるのは嫌なので〝毎回仕方なくお茶に持ち込む〟のだ。
そうつまり〝好きで海龍と茶ァ飲んでる訳じゃねぇ!〟と、言うことである。
だがやはり、“姫百合を探しに行かれるよりはずっと良い”。

――さておき、こうしてブラッド フラワーのとんでもない夏は過ぎていったのだった…――


――――――
――――

そして夏も終わり、空も高くなってきた頃のこと。

姫百合とサンダーソニアは、ブラッド フラワーの庭に咲き始めた秋薔薇を眺めながらお茶をしていた。

二人は薔薇の紅茶を飲みながら、何気なく海龍の話をしている。


「夏が終わったら、パタリと来なくなりましたね」


「それは国が違うからな。帰ったんじゃないか?さすがに日本で遊び過ぎたんだろう」


「それもそうですね。好意を抱いて頂いていたようですが、国も違いますし珠女神ですし、彼にとっても現実的ではない好意だったでしょうから、もうこの夏の終わりを機に、私のことは諦めて頂けたら良いのですが…」


「ああ。そうだな。…―だいたい、桃珊と一緒に来ておいて、姫百合にアプローチとはどういうことだ?あの二人は本当にただの幼馴染みなのか?」


「ただの幼馴染みあり、交際している訳でもないそうです。…――ですが、桃珊がよく分からないのですよ。何の気持ちもなしに、“ただの幼馴染みの男”に、毎回ついて歩くと思いますか?私は“思わない”のですよ。…けれど桃珊は、海龍が私に迫っていても、顔色一つ変えません」


「…アイツらの事はよくは分からないが、それはオレも思っていた」


秋の庭で紅茶を飲みながら、〝よく分からないな〟と、二人はそんな話をしている。

――そしてサンダーソニアは、何か気掛かりそうに姫百合の横顔を眺め始めた。
すると、視線に気が付いた姫百合は不思議そうに『何ですか?』と、そう問い掛ける。


「何だかんだ言いながらも、姫百合は海龍が来なくなった事を残念に思っているのか?」


「何を言っているのですか?何だかんだ知り合いのようにはなってしまいましたから、嫌いとは思いません…――ただ、海龍には本当に申し訳ないのですが、苦手なタイプなのです…大勢の女性に囲まれていたり、私よりも美意識が高かったり……あと、周りの女性たちの目が嫌なのです…被害妄想かもしれませんが、どうしても“怖い”と思ってしまいます…海龍が怖い訳ではなくても、結局はそれも彼への苦手意識に繋がってしまうのです。…――正直、最近来なくなりホッとしてしまいました。私は酷いでしょうか?」


「何を言っている?酷いものか。優しすぎるくらいだ。ホッとしているのは姫百合だけではないしな。オレだってそうだ。…――それに姫百合がそう言った事にも、今もホッとしている」


「私が言った事に?」


「ああ。当たり前だろう。大切な許嫁を、なぜ海龍に狙われなくてはいけない?姫百合が海龍の事を、知り合い以上に見ていない事に安心した」


「それ以上に見る訳がありません。私の居場所はここにあります」


そう話しながら姫百合は壮大なブラッド フラワーの庭を眺めている。コスモス、ダリア、アメジストセージに秋薔薇…――彩り豊かな花の楽園を。


「私は海よりも花を見ていたいし、海龍よりも貴方の隣がいい」


「そんな事を言ったなら、オレも姫百合の隣以外に興味はない。昔からそうだ」


花々に囲まれた秋の庭で、二人は互いに気持ちを打ち明け、ガーデンテーブルで向かい合いながら微笑み合っていた。


――――――
―――

――そしてその頃海龍と桃珊は、珠女神の海の見える部屋に共にいた。

海龍は浮かない顔をしている。姫百合と気持ちが通じ合わないまま、こうして自国の組織へと戻ってきてしまっていたからだ。


「桃珊、夏が終わり、組織へと戻って来てしまった。…オレはどうすれば良いと思う?」


「“夏が終わるまでに気持ちが通じなかったなら諦める”と、そう言っていませんでしたか?なのになぜ、“どうすれば良い”と聞くのです?」


「……“気持ちが通じなかったから”聞いたのだ…」


「“けれどまだ未練がある”から聞いたのですね」


俯き加減に海龍が頷くと、桃珊は呆れたように視線を反らした。
桃珊は日本にいる時も組織に戻った時にも、不機嫌な顔一つしなかった。けれど今、桃珊は不快そうに口を尖らせていた。そしてそっぽを向いたまま『諦めたくないのならば、諦めなければ良いのでは?』と、そう話す。
『やはりそう思うか?』と海龍が顔を上げると、顔を背けている桃珊の横顔が、どこか不機嫌そうであった。
すると、不快そうな面持ちで桃珊が振り向く。


「諦めずに姫百合さんを追っても構いませんよ。…―けれどならば、私の横にはもう並ばないで下さい」


「桃珊?…なぜそうなるんだ?!…」


「“鬱陶しいから”に決まっています。私の横に並び、アナタはいつも、嬉しそうに姫百合さんの話をしますね?…姫百合さんを追うなら、これからも私の元に戻って“その話”をするのでしょう?鬱陶しいです」


「っ……」


「もしも姫百合さんとの交際が叶ったなら、尚更です。他の女の男の隣に仲睦まじげに並ぶ趣味など、私にはありませんから。それに、姫百合さんにも悪いではありませんか?…―」


「桃珊本気で言っているのか?今までずっと一緒だったというのに…」


「…―そしてもしもめでたく姫百合さんを娶る事が出来たのなら、もう二度と私の視界にも入らないで下さい。“出て行け”…―と、言いたいところですが、珠女神はアナタの家なので、仕方がありません。その時は“私が組織から出て行きます”」


「桃珊!?…――桃珊!それは本当の話なのか?本気なのか?!…そんな事を言うな…!!…桃珊の隣に並び話すことも出来ず、見ることも叶わず、しまいには離れ離れと言うのか?!そんなの嫌に決まっているだろう…!!桃珊がいない生活など考えられないっ…!!…」


「何を言っているのですか?私もアナタも、そのうち誰かと結婚するのでしょう。そうなれば一番大切なのは自分の“旦那”と“嫁”でしょう。結婚してまで幼馴染みが一番大切な訳がない。幼馴染みと離れ離れになる事など、恐れるに足りませんわ!」


「…これからも、キミがいない生活は考えられない…」


「あら、よく言いますわ。私のいない生活は考えられないと言うのに、よく恋に浮かれていたものです。仮に姫百合さんとお付き合いした後も、それを言うつもりですか?身勝手に恋に浮かれているくせに、アナタは私の横に戻ってくる。腹立たしいです。――他の女と恋を楽しみ、私の元に戻って安心するつもりですか?それが気に食わないから“姫百合さんを追うならもう横に並ぶな”と言っているのです!」


「桃珊っ……オレが悪かった…!…もう姫百合を追ったりしない。…だからどこにも行かないでくれ…!桃珊と離れる事など考えられない!……オレが愚かであった…!…」


すると桃珊は『えぇ。愚かですね』と、ツンとしたままそう言って頷いた。


「…すまなかった。言われるまで気が付かなかった……恋をしたかわりに桃珊が去ると言うのなら、オレは必ずその恋を諦めて、桃珊の側にいられる事を選ぶだろう……」


その言葉に嘘はない。だが海龍は頭を悩ませていた。〝なんだこれは?…ならば恋とは何なのだ?…恋する意味がない。だが浮かれる…だが、そんなものよりも桃珊の方が大切だ…〟と…――
〝恋する事に意味がないとは言わないが、自分に限っては桃珊がいるので、恋する意味などなかったように感じる〟と。〝…ならばそもそも、桃珊へのこの感情はなんだ?〟と…―
―そして一つの結論に結びつくと、海龍はハッとしたようであった。


「…桃珊……」


「何です?」


「……ずっと昔に桃珊に恋をしていた。そして随分と前から、その気持ちがそれ以上の…―恋以上のものへと、変わっていたのかもしれない…」


そう話す海龍の事をじっと眺めながら、自然と桃珊の不機嫌な顔が直っていく。
桃珊は柔らかく口元へと弧を描いた。


「貴方がそれを自覚してくれるのを、ずっと待っていました」


穏やかに微笑む彼女の表情からは、喜びの感情が溢れているようだった。
――そして桃珊は言った。『その気持ちに相応しい言葉を私に下さい』と。


「桃珊のいない世界など考えられない。もしも離れたなら、身が引き裂かれるように心が痛むだろう。……―離れたくはない。今、生涯を桃珊の隣で過ごしたいとまで感じている。――オレはキミのことを、愛しているのだろう」


桃珊は嬉しそうに頬を染め微笑むと、可笑しそうにクスリと笑った。『あら、予想以上の言葉まで聞けましたわ。まるでプロポーズみたい』と、そう言いながら。海龍は『そうとってくれても構わない』と。


「私は世界で一番の幸せ者ですわ」


桃珊と海龍は手を握り合いながら身を寄せ合い、あの青い海を眺めていた。珠女神の祝福で溢れた、あの美しい海を――


―――――
――


――穏やかな波が押しては返す浜辺を、珠鈴は桃珊と海龍との三人で散歩をしている。

海龍は変わらず珠鈴の事を可愛がっていたけれど、珠鈴は兄と桃珊の関係が変わった事にすぐ気が付いた。

兄の腕を放して足を止めていると、兄が振り返って『珠鈴』と名前を呼んだ。

珠鈴は共に歩く気分になれずに『今日は戻る』とそう言って、すぐそこの珠女神の組織へと、一人で引き返して行く…―

…――唇を噛み締めた珠鈴は、涙で視界が霞むのを感じていた――


「…ああ、いとこなら良かった。はとこなら良かった。…これから生まれてくる子どもたちは、“早く会いたい”からと言って、一番好きな人の妹としては、決して生まれて来てはいけないわよ――…」


――叶わない恋だなんてこと、昔から知っていた。

いつか貴方に愛を誓い合う人が出来たなら、そうなってまで妹が一番な訳がない。

ずっと一番近くで私を守ってくれていた貴方は、他に守るべき女性を見つけて、私から離れていく。

――これから巡り会う海の女神の子どもたちは、どうか報われる恋をしますように…

…―そしてどうかその時は、私の紡げなかったこの想いも、一緒に抱えていって――

報われずに落とした私の想いが、あるべきところへと、戻れるように――



―――【Fin🐚】―――*


ありがとうございました。また本編と第十六回でお会い致しましょう🌠

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