現代、過去、未来――。

 それぞれの時代を生きていた者たちが、幕末で交差する。

 ある者は歴史を守るために。

 ある者はその時代を生き抜くために。

 そしてある者は――元の時代に帰るために。

 導かれるまま、その手はいくつの罪を重ねていくのだろう。

 狂い始めた出会いがもたらす、時代…


あらすじ



 現代を生きる桃華は、ある日目が覚めると幕末にタイムスリップしていた。桃華の時代よりもはるか未来からやってきた青年に、歴史改変を止める手伝いをしてほしいと、強制的に連れてこられたのである。

 桃華の担当は壬生浪士組、のちの新選組の歴史を見届けること。荒くれ者の集団の中で、女中として身を置くこととなるのだが……。


 幕末での暮らしは、現代っ子の桃華にとって困難の連続だった。さらに一癖も二癖もある彼らとの生活に翻弄され、頭を悩める日々。


 そんな中事件が起きる。

 八木家の奉公人、吉兵衛が何者かによって殺害された。そして初代新選組局長、芹沢鴨とその一派の暗殺と粛清。

 人の生き死を目の当たりにした桃華は、改めて幕末と言う時代の渦中にいることを痛感する。

「なにもできない」「誰も助けられない」「なにもしてはいけない」「誰も助けてはいけない」

 常に傍観者であり続けなければならないこの任務は、まだ18歳の桃華にとってあまりにも残酷なものだった。


 塞ぎ込んだ桃華を案じ、静かに寄り添う永倉新八。彼の優しさに触れ、桃華は次第に想いを募らせていく。

 しかしその光景を、面白くないと駄々をこね始める沖田総司。沖田は自分でも気付かないうちに、桃華に好意を寄せていた。

 自分だけを見てほしい……。わがままな感情で桃華を傷つける沖田の暴走は、いつしか近藤勇の養女としてやってきた町医者の娘、岩田コウにぶつけるようになっていく。


 ある日、買い出し中の桃華は、永倉が見知らぬ女の人と一緒にいる場面に出くわした。

 彼女の名前は小常。史実では、のちに永倉が妻として迎える女性である。

 長い間、彼らと共に過ごしてきたせいか忘れかけていた。桃華はこの時代の人間ではないことを。いずれは元の時代に帰らなければならない立場であることを。


 それから数日がたった頃、桃華は永倉に呼び出され「私と夫婦めおとになってほしい」と告げられた。

 突然のプロポーズに驚き、そして幸せを噛み締める。二人は想い合っていたのだ。ずっと前から。


 しかし、桃華に迫る罪の烙印。


「なにがあっても、決して歴史を変えてはいけない」桃華に審判が下される。

 失意の底に突き落とされた桃華を救うのは、優しさ溢れる掌だった。