四畳半王妃とロリータ革命

作者96助

フランス革命の最中、断頭台へと向かう最後の王妃マリー・アントワネットは自分を罵る服とは到底呼べないような襤褸を纏う女性達を前に「何故自分がこんな目に合わなければいけないのか」と絶望の淵で僅かな怒りを感じてしまう。そして同時に、「自分を誰も知らない場所で、フランスに嫁いだばかりの幸せな頃に戻れたら何…

1793年、オーストリアから嫁ぎフランス王妃となったマリー・アントワネットは群衆達の野次に背中を押され一人処刑台への道を進んでいた。彼女の目に映るのは自分を売女と罵る同じ女性達の姿だった。泥にまみれ、ドレスとはとても呼べない服を纏う彼女達を横目にマリーは「何故王妃であった自分がこんな目に合わなければいけないのか」と絶望の中で怒りを覚え始める。そして自分の命を奪う断頭台を前に、「何も知らないフランスに嫁いできたばかりの最も華やかだったころの自分に戻れたら、何か変わるのだろうか」と思ってしまう。その瞬間、マリーの目に映っていた世界は一転し気が付けば見たことのない場所に立っていた。


場所は変わり、現代日本。高校に進学したものの、自分の服の趣味がロリータ服だということがばれ、元々引っ込み事案な性格から不登校になってしまった少女:楡井紫は自分の大好きだったロリータ服をゴミ捨て場に捨てる所だった。父親が亡くなり、一人の肉親である母親からも不登校になってしまった事を切っ掛けに関係を悪化させてしまう。ロリータを着るうえで大切なロココの精神とはかけ離れた姿になっていく自分に自己嫌悪を感じ、泣きながら宝物のロリータ服を入れたゴミ袋を投げ捨てようとした瞬間、彼女の前に一人の少女が現れる。

美しい金や銀糸の刺繍を施し、髪を結い上げた幼い少女はまさにロリータ服を愛した紫が「ロココの精神の象徴」として尊敬してやまないマリー・アントワネットその人だったのだ。

少女は自分の事をマリー・アントワネットだと名乗り此処が何処で何故自分がこの場所にいるのか分からないと紫に話した。マリーは運命の悪戯でフランスに嫁いできてばかりの記憶までを持って、辛い記憶を全て忘れ現代日本にやってきてしまったのだ。紫は自分の事をマリー・アントワネットだと名乗る記憶喪失に近い少女をほおっておくことが出来ず、捨てることの出来なかった服と一緒に彼女を自室に匿い不思議な共同生活を送り始める。

天真爛漫ながら不思議な威厳を持つ少女マリーと共にロリータ服を身に纏う紫の世界は少しずつ変わり始める。校則だらけで生徒を縛る学校や、今まで自分と住む世界が違うと話すこともしなかった学友たち、そして仕事ばかりに目を向けて自分の事を愛してくれないと思っていた母親。マリーが運ぶ小さな転機に紫が少しずつ強くなっていくが、マリーはその度に少しずつ自分が処刑されるまでの記憶を思い出し始めてしまう。