『蹴鞠の君~鞠庭秘抄』(けまりのきみ~きくていひしょう)

作者南 大村

物語全体のあらすじ

日本の12世紀初頭、院政期の平安京で、後世の人々に「蹴聖」(しゅうせい)と呼ばれ
た1人の男がいた。摂関政治で栄華を極めた藤原道長の玄孫である藤原成通(ふじわらの
なりみち)である。

あるとき、屋敷を抜け出した幼い蹴鞠丸(成通の幼名)は、悪童に命じられて売り物の鞠
を盗み出…

物語全体のあらすじ


日本の12世紀初頭、院政期の平安京で、後世の人々に「蹴聖」(しゅうせい)と呼ばれ

た1人の男がいた。摂関政治で栄華を極めた藤原道長の玄孫である藤原成通(ふじわらの

なりみち)である。


あるとき、屋敷を抜け出した幼い蹴鞠丸(成通の幼名)は、悪童に命じられて売り物の鞠

を盗み出してきた少女の裏葉(うらは)と出会う。悪童に取り上げられた鞠を取り戻すた

め、成り行きで蹴鞠勝負をすることになった蹴鞠丸であったが、勝負の中で必至に鞠を追

いかける中で蹴鞠の面白さに魅せられていく。


時は蹴鞠が遊戯として流行し始めた蹴鞠道黎明期。蹴鞠名人で名足と称された祖父藤原顕

季(ふじわらのあきすえ)の血を受け継いだ成通は、祖父の影響を受けて本格的に蹴鞠を

始める。


誰よりも高く、誰よりも長く、蹴鞠を上げ続ける蹴鞠の名人になりたい。成通は、蹴鞠の

師である賀茂成平(かものなりひら)のもとで、千日鞠と称する過酷な修練や蹴鞠の名足

達との蹴鞠勝負を通して、心身ともに成長してゆく。


院政期という時代の変革期の中で蹴鞠に情熱を傾けた成通。その人生は平坦でなかった。

院政という天皇の位を退いた上皇による専制政治の中で、宮廷を舞台とするいくつもの事

件に巻き込まれていく。


治天の君である白河法皇の寵姫(後の待賢門(たいけんもん)院)との間におこった醜聞

事件による三兄藤原季通(ふじわらのすえみち)との別れ、父藤原宗通(ふじわらのむね

みち)・長兄藤原信通(ふじわらののぶみち)・祖父顕季の相次ぐ死去、2人の妻との2

度の死別、最大の庇護者であった白河法皇の死去、それに端を発した天皇家・摂関家の後

継者争い、兄季通との別れの原因となった待賢門院と成通の従兄妹で祖父顕季の孫にあた

る美福門(びふくもん)院との天皇家の後継者を巡る女の戦い…


権力を巡る政争の中に身を置きながらも、己の理想とする「蹴鞠道」にたどりついた成通。

成通は、弟子である藤原頼輔(ふじわらのよりすけ)に自らの蹴鞠の技を伝え、後世にそ

の名をとどろかせることになる。


混迷する時代は保元・平治の乱を引き起こし、大きなうねりとなって源氏と兵士の武士達

が活躍する「武者の世」の到来をむかえることになる。