物語全体のあらすじ
レティシアは物語が大好きな伯爵令嬢。
三次元の男性が苦手で、物語に出てくる二次元の男性が大好きだった。
特に『ロレンシア戦記』に出てくる孤高の騎士団長・オスヴァルト様が大好きで、つい先日刊行された最新刊で彼がヒロインを守って非業の死を遂げたため、泣き腫らして一週間部屋から出てこなかった。
そんな娘の将来を案じたのか、父親がさる公爵家と縁談を結んできた。だがレティシアは「現実の男性なんて無理!」とパニックに。
だが無情にも話は進んでいき、レティシアは婚約者の家まで連れてこられてしまった。
使用人たちの噂によると、婚約者であるというジークハルトは何人もの婚約を破談にされており、その理由がはっきりとしないことから、実は「『不能』なのでは……」ということだった。
だが残念なことにレティシアは母親の方針で、そうした性の知識が乏しく、『不能』という意味すらよく分かっていないかった。
が、とにかくそんな恐ろしい相手なら、今回の縁談もなしになるのではと密かに期待する。
屋敷を訪れ、初めて対面したジークハルトは、なんと顔の上半分を仮面で覆い隠していた。
その異様な顔貌にごくりと息を吞むレティシア。
そんな彼女を見て、すげなくあしらうジークハルト。だが実はレティシアが緊張を走らせたのは単に彼の姿形が恐ろしかったから――というわけではなかった。
この国では婚約をした場合、一度体の相性を確認してから正式な結婚、となる場合が多く、レティシアも数日後、彼の寝室に向かうこととなった。
だがジークハルトは共寝を拒否。もしかしてこれがメイドたちの言っていた『不能』ということかしら、と誤解しつつ、レティシアはずっと我慢していた「仮面を取ってほしい」という願いを告げる。
何度か拒絶されるも、レティシアの熱心な眼差しを前にジークハルトが折れる。だがこれを見たらお前は、間違いなくこの縁談を断りたくなるはずだと脅され、ドキドキするレティシアが見たものは――凄惨な傷を負ったジークハルトの素顔だった。
醜いだろうと自身を卑下するジークハルト。だがレティシアは目をきらきらと輝かせて、彼の手を握りしめた。
「――オスヴァルト様……!」
幸か不幸か、恐ろしい素顔の婚約者は、レティシアの唯一無二の推しと瓜二つなのであった。
これは死んだと思っていた二次元の推しが、突如現実のものとなって甦った令嬢と、醜い傷に心を閉ざし続けていた公爵が、少しずつ愛を知り、また教えていく物語である。