衝撃的なラストに思わず息が詰まる思いがしました。深淵から脱却するなんていうのは只の綺麗ごとで、実際は悩みあぐねて、妥協して、「仕方ないなあ、もう少しだけ生きるか」なんていう感じで力なく笑って淡々と生きる他ない。でも一筋の光を見つけようとゆっくり歩むのも一つの道だし、生きていることは頑張っている証拠で、自分では気づけなかった自分を必要としている誰かがいるなら、極論、息をしていることが素晴らしいことなんじゃないか、なんていう風に感じています。毎日、お疲れ様、って自分に言ってあげて、面白味のない人生を如何に彩らせるかを考えて日々過ごせば良いんじゃないか、というスタンスが本作品を踏まえ、私の中に確立したような気になりました。
 排他的に生きていた彼女は自分自身を何処にでもいるような量産型の人間だと位置づけていた。でも、案外ほとんどの人がそう思っているのではないか、と感じました。そんな中でも、少しだけ他人と違う部分、その人だけしか持っていない一面を見つけてくれる人が地球のどこかにはいるはずだ。なんていう漠然とした想いを胸に、自分も誰かの特別な部分にスポットライトを当てられるよう、相手をよく見つめることを心がけたいな、と新たな目標が出来たというか。本作品に敷き詰められた美文は人の無常感や矛盾を現していて、まだまだ未熟な私には理解の及ばない部分もあり、物語の核なるところに触れられていない気さえしているのですが新たな温かい希望が自分の中に芽生えているのを感じています。
 自分のことは自分で助けないと。助けてくれる誰か、なんていう望み薄なものに縋るなんて無意味だと思っていた彼女が彼に依存するという形で少しだけ心を開いてくれたことは良かったのかなあ、と。けれど、双方向での深淵は、どう足掻いても絡まないのがとても悲しく思えました。彼女の水底は彼女にしかわからないし、彼の水底を彼はきっと彼女に教えることはない。でも、わかろうとすることは出来る。寄り添おうという姿勢は表すことが出来る。どうしようもないもどかしさがここにはありましたが、もしも無理に背伸びしている人がいたら、素を見せても良いんだよ、無理しなくても良いんだよ、と踵を地に付けてもらう為に、つまさきを踏むという行為も一つのやり方なのかな、と学びました。
 少女から大人へ。少年から大人へ。そんな狭間で戸惑い、あたふたする。だからか、彼らには親近感が湧きました。ああ、自分だけじゃないんだな、と。完全なカタルシスというわけではありませんでしたがこれも救いであることには間違いないよな、という彼ららしいピンクブラウンな終わり方でした。甘い匂いと苦い味。人生は煙草みたいだな、なんて思いを馳せています。インパクトのある題名に心惹かれ、ページを捲り終えた先には痛くて優しい世界が待っていました。
 どうか、彼らが小さな幸せを二人で創り上げ、最終的に別れることとなったとしても、最期まで、それぞれが生きることを諦めないでくれたら良いな、なんていう自己満な祈りを捧げます。素敵な作品をありがとうございました