『いとも簡単に、救われてしまう。』
 二つの想いが共鳴したのを見届けた今、どうか、圭人と琉生が幸せな時を過ごせますように、と願わずにはいられなかった。
 あまりにも美しくて儚い世界が私の琴線に触れるのはあっという間のことでした。
 ”好きな人”に自分を覚えて欲しいが為につける傷。”それ”は最果てで眠り続ける。そしてその傷は傲慢と偏見で出来ていて、違う視点から見れば狂いに満ちているとも言えて。それなのに、そんな、人間であれば誰しもが持つ危うい心を綺麗だと感じました。芯があって、穢れを知った純粋さ。矛盾だらけかもしれないけれど、何だか理にかなっている気さえして。ハッとさせられる果ての処を見た心地になっています。
 表紙文章の言葉も本当に印象的で、いつしか自然と口ずさんでいました。
 『誰もが誰かを傷つけながら 傷つけたことに傷つきながら 生きているのかもしれない』
 何度も咀嚼することによってより、味わい深くなるフレーズ。人が生まれてくるのは幸せになるのと同時に人を傷つける為なのかもしれないなあ、とぼんやり思いを馳せています。シビアでしかないですが、傷を持った人だからこそ幸せを感じ取れるのかもしれない、と気づけて。もしも誰かを傷つけること、そして自分が傷つくことが免れないのだとしたら。私は、月光に願ってしまうだろうし、縋ってしまうだろう。いつかは互いに救われるはずだから、と夢を見ないと、どうしようもなく苦しくなってしまうから。
 ふと、以前口に含んだことのある透明なアイスコーヒーを思い出しました。水のように透明なのに、舌を潤すのは珈琲そのもの。まるでその飲料は彼ら二人、そして私たち自身を現している気がして。ただひたすら苦い割には何色にも染まれる無垢さがある。せめて、そのドリンクを捨てないで、それを背負って前に進みたいと感じています。
 素敵な作品をありがとうございました。