オスの家政夫、拾いました。〜掃除のヤンキー編〜

作者キイロ結衣

「なんで、女だからって家事ができなきゃいけないのー?!」

男性雑誌社の主任として努めている峯野彩響(みねのさいき)は、
自分の能力を認められ、ガンガン働いているキャリアウーマン。

色々あって、やっと入居「家政夫」を雇ったものの…

「俺と一緒に掃除しよう!!!きっとお前の人生も変わってくる!」…

「これはお金が一切かからない!言うだけタダ!そして綺麗になる、最高じゃない?」


「はあ…」



呆れすぎて、逆に笑いが出る。そうだ、アホくさいけど、言われた通り、言うだけタダ…ではある。それに、このままだと、いつまでも自分を開放してくれなさそうで、彩響はもじもじしながら口を開けた。



「私は…美しい」


「もう一回」


「私は、美しい」


「もう一回」


「私は美しい。私は美しい。私は美しい」



ここまで言うと、不思議とさっきまでの恥ずかしさが少しは和らげた気がする。成が微笑んでいるのが見えた。



「どう?」


「さあ…どうでしょ」


「大丈夫、きっとそのうち効果がでてくるよ」



見てるこっちまで気持ちよくなる彼の笑顔を見て、彩響はふと思った。実は彼が一所懸命言っているこの変なレクチャーより、自分の体に触れているこの妙な姿勢が気になる。いろいろ変なことを沢山言われ、今まで意識していなかったけど、いざ気にすると恥ずかしくなる。しかしそれと同時に、なんだか安心もしてきた。



(こんなふうに誰かに後から支えてもらったの…何年ぶりだろう)



ずっと一人で、なにもかも解決して、我慢して…。そんな生活の繰り返しで、今までずっと忘れていた。誰かがこうやって支えてくれる安心感を。自分より大きい体の中でリラックスしていると、自然に彼が言うアホくさい言葉もそれなりにいい感じに聞こえた。



「…本当に、美しくなれるのかな」


「もちろん。美しくなれるだけじゃなくて、いろいろとうまくいく」


「どうして、そんなに確信できるの?」


「それは…俺が経験者だから??」




すこし驚いて鏡を見るけど、成は特に変わらない様子で、ニコニコとこっちを見る。彩響はそれ以上質問せず、もっと力強く鏡を拭いた。



鏡を全部拭いて、キラキラと光る全面を眺める。さっきの言葉のおかげなのか、それともただ機嫌がよくなっただけなのか、鏡の中の自分がなんとなく綺麗に見えた。おそらく、なにかの錯覚だろうが、それでも徐々に気分が晴れてきた。


鏡を眺めていると、一瞬だけ後ろの彼と目があう。


その短い一瞬で、自分を支えている手に少し力が入った気がした。





ー本編から