昭和後期。吸血鬼や人狼が隠れ住む架空の街にて。

吸血鬼と人間の混血であるため、居場所を失った少女・シャルロット。
シャルロットが行き場もなく街をさまよっていたところ、東郷晃一と名乗る胡散臭い男が手を差し伸べる。
晃一は、表向きは私立学校に教員として勤めているが、新興宗教団体「暁十字の会」にて「荒…

 ふらりふらりと、覚束無い足取りで、少女は真昼の商店街をさまよっていた。

 じりじりと身を焦がす太陽が、じろじろと奇異の目で見つめる視線が、青白い肌に突き刺さる。

 汗でうなじに張り付いた栗毛が、暑さで惚けた色の薄い瞳が、血を流す素足が、目立たないわけもない。

 けれど、誰も彼女を助けはしない。……いや、助けるのが恐ろしいのだ。


 この街に既に根付いた災厄の芽から、誰もが目を背けたがっている。

 そう、無意識に思わせるほどの「何か」を少女は持っていた。けれど、ただの人間にはその「何か」がわからない。


「だれ、か……」


 掠れたか細い声は、初夏の生ぬるい風にすらかき消され、少女はその場にへたり込むよう膝をついた。


 不意に、浅黒い手のひらが、目の前に差し出される。


「どうしたのお嬢ちゃん。体調悪い?」


 ジャージ姿の男は目を細め、無精ひげの伸びた口元に笑みを浮かべた。逆光で表情がわからなくとも、少女には、その言葉だけで充分だった。




 昭和の終わり頃、時期は初夏。

 吸血鬼の少女は生きながらにして死を悟り、狩人の男は死んだように生きていた。


 これは、ひとつの恋の始まりと、終わりまでの物語。……とある時代のうねりの狭間、確かにあった、平穏な日々。