ふらりふらりと、覚束無い足取りで、少女は真昼の商店街をさまよっていた。
じりじりと身を焦がす太陽が、じろじろと奇異の目で見つめる視線が、青白い肌に突き刺さる。
汗でうなじに張り付いた栗毛が、暑さで惚けた色の薄い瞳が、血を流す素足が、目立たないわけもない。
けれど、誰も彼女を助けはしない。……いや、助けるのが恐ろしいのだ。
この街に既に根付いた災厄の芽から、誰もが目を背けたがっている。
そう、無意識に思わせるほどの「何か」を少女は持っていた。けれど、ただの人間にはその「何か」がわからない。
「だれ、か……」
掠れたか細い声は、初夏の生ぬるい風にすらかき消され、少女はその場にへたり込むよう膝をついた。
不意に、浅黒い手のひらが、目の前に差し出される。
「どうしたのお嬢ちゃん。体調悪い?」
ジャージ姿の男は目を細め、無精ひげの伸びた口元に笑みを浮かべた。逆光で表情がわからなくとも、少女には、その言葉だけで充分だった。
昭和の終わり頃、時期は初夏。
吸血鬼の少女は生きながらにして死を悟り、狩人の男は死んだように生きていた。
これは、ひとつの恋の始まりと、終わりまでの物語。……とある時代のうねりの狭間、確かにあった、平穏な日々。