to-ya

【はな】は人 【河】は時
戦国乱世を背景に、この物語全編では、歴史に名を残す事の無い名もなき人々がその主軸を担う。

主人公の玄二郎は、恐らくは発達障害を抱えており、それが故に殺伐たる時勢に在って余りにも無垢な魂を持つ存在として描かれる。

そんな玄二郎を親身に支えるのが、幼馴染みの五郎丸。そして玄二郎の純真に想いを寄せる芙彌。

玄二郎への献身は、やがて五郎丸とその妻三都との間には埋め難い溝を造り。
対して芙彌の想いを無償の愛へと昇華させて行った。


巡る季節の中、幾度も花は咲くけれども。
一度咲いた花と同じ花が二度と咲く事は無く。

また淀み無い河が、その流れを止めぬ様に、時代の潮流は綿々と連成って行く。

芙彌が願った様に、玄二郎の最後に見た景色ははなの河であったに違い無い。

その花こそが、ただ一度の命を尽くす人の姿であり、河の流れとは移り行く時代なのであろう。

名も無く散った人々の様々な想いを描き出した、今作品は歴史小説であると同時に、繊細で上質な人間ドラマであるとも言える。

美しい言葉を真に求めたそんな時、是非この物語を読んで頂きたい。