眠空
蒼氓に光を当てた物語
戦国大名や戦国武将に日は当たれども、日の目を見ることのない下級武士や足軽、そして民草。
そんな蒼氓(そうぼう)にやわらかい光を当てた物語。
その時代を見てきたかのような臨場感、迫力などから、著者様の歴史の造詣の深さと切なる愛情を感じました。
知識だけでは小説は書けません。
著者様は知識だけでなく、温かみのある人物描写や情愛を丁寧に描ききることで、しっとりと味わい深い『時代小説』へと昇華させています。
主人公や彼を取り巻く近しい人々の比類なき純粋さは一片の曇りもなく輝いていて、【はな】という純一無雑な存在と綺麗に寄り添うように重なり合っていました(六紋銭とリンクさせるという発想が特に素晴らしかったです)。
戦国時代。乱世に苦しみ喘ぎながら、それでも木の下の翠露のようなつつましい光を放ち、懸命に生きた人々。
足軽ながら武人としての志を抱いた人々。
生きることが全てだった人々。
教科書に取り上げられることのない人々の民情をしっかりとこの目で見たようで、心の底から素晴らしい時代小説を読んだという気持ちになれました。
素敵な作品をありがとうございました。