雪風
多面的に奥深い、傑作
突然発生した、不可解な事件。
これは神が与えた罰であるのか、それとも人間の環境破壊によって作り出された、起こるべくして『起こりうる』出来事だったのか。
いずれにしても、これに翻弄された人間は不可思議な現象の中、究極の状況下で何を考え、どう行動し、思いを馳せるか。
『消えるものであるなら、愛すべきか、否か』
自らの意思とは無関係に芽生える感情は、どう制しようとも止められぬもの。
表現されている幾多の人間くさい思考が、なんとも読み手の心を絞り、釘付けにする。
作品を読み終えた余韻は、とても言葉では表しきれない。
幾つもの感情が混じり合い、風に溶ける。
張り巡らされた伏線が、実に丁寧にタイミングよく拾われていて。
的確な描写により非現実的な物語が、なんとも現実味を帯びたものに思えてきた。
環境問題を1つのテーマとしつつ、その中で人間の『生きる』もどかしさに主軸を置いた作品。
作者様ならではの、ある種ユーモアが効いている会心の一作。
嫉妬すら覚えるこの筆力に、魂が震えた。
読んで損はないと、胸を張ってお勧めしたい。