作品コメント
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- まさーき
もうすぐ消える。それをプレゼントとして受け入れた姉と弟は、今はもう汚れた風の中。
人が消えていく怪現象。
自分も消えてしまうと知った弟が最期に望んだことは、禁じられた行為で、でも抑えがたい好意で。
(なんで消えんねん!)とツッコミたいのはやまやまですが、そんなことよりも、登場人物の魅力にとりつかれました。
深みのある本格的な小説です。
ガツンと手応えのある作品を読みたい人にオススメです。 - 繭結理央
風のジレンマ
工業先進都市から拡がっていく不可思議な神隠し。そして、一対の姉弟の身にも風は静かに訪れる。
この作品は“心という風”の物語。
人の心はいつだって掴み所がなく、容易く掌をすり抜けていく。自分の心も同じで、読みにくい。故に悩む、傷つく、苦しむ。心とは、まさに風のようなものといえる。
姉・陽子にとって行動の読めない弟・愁はまるで風。ワケありの姉弟が故に芽生えていた陽子の“罪の意識”もまた、当人には気づかぬ胸の内に漂った風。
では、どう心を掴もう?
現実世界では極めて難儀なこの問題、解く契機を与えたものもまた、風だった。現実世界では極めて難儀とされる、環境破壊のもたらした風である。
風が風を……環境が心を、紐解いていく。
作者様のこのアイディアに驚いた。そしてすぐ、あるジレンマに陥った。
当作品のようにならないと、我々は心を掴みあえないのだろうか?
ならば壊そうか?
だが壊せば喪う。
このジレンマもまたSFの醍醐味に思う。すっきりとしないかも知れないが、皆様も思い切って“風のようなジレンマ”を噛みしめてみては如何か。 - 雪風
多面的に奥深い、傑作
突然発生した、不可解な事件。
これは神が与えた罰であるのか、それとも人間の環境破壊によって作り出された、起こるべくして『起こりうる』出来事だったのか。
いずれにしても、これに翻弄された人間は不可思議な現象の中、究極の状況下で何を考え、どう行動し、思いを馳せるか。
『消えるものであるなら、愛すべきか、否か』
自らの意思とは無関係に芽生える感情は、どう制しようとも止められぬもの。
表現されている幾多の人間くさい思考が、なんとも読み手の心を絞り、釘付けにする。
作品を読み終えた余韻は、とても言葉では表しきれない。
幾つもの感情が混じり合い、風に溶ける。
張り巡らされた伏線が、実に丁寧にタイミングよく拾われていて。
的確な描写により非現実的な物語が、なんとも現実味を帯びたものに思えてきた。
環境問題を1つのテーマとしつつ、その中で人間の『生きる』もどかしさに主軸を置いた作品。
作者様ならではの、ある種ユーモアが効いている会心の一作。
嫉妬すら覚えるこの筆力に、魂が震えた。
読んで損はないと、胸を張ってお勧めしたい。