繭結理央
風のジレンマ
工業先進都市から拡がっていく不可思議な神隠し。そして、一対の姉弟の身にも風は静かに訪れる。
この作品は“心という風”の物語。
人の心はいつだって掴み所がなく、容易く掌をすり抜けていく。自分の心も同じで、読みにくい。故に悩む、傷つく、苦しむ。心とは、まさに風のようなものといえる。
姉・陽子にとって行動の読めない弟・愁はまるで風。ワケありの姉弟が故に芽生えていた陽子の“罪の意識”もまた、当人には気づかぬ胸の内に漂った風。
では、どう心を掴もう?
現実世界では極めて難儀なこの問題、解く契機を与えたものもまた、風だった。現実世界では極めて難儀とされる、環境破壊のもたらした風である。
風が風を……環境が心を、紐解いていく。
作者様のこのアイディアに驚いた。そしてすぐ、あるジレンマに陥った。
当作品のようにならないと、我々は心を掴みあえないのだろうか?
ならば壊そうか?
だが壊せば喪う。
このジレンマもまたSFの醍醐味に思う。すっきりとしないかも知れないが、皆様も思い切って“風のようなジレンマ”を噛みしめてみては如何か。