久遠マリ
残されたきみへ
暑い。夏だ。だけど暑いだけではないそこには、様々なものを抱えた人が確かに存在しています、蜃気楼や蛍などのようでなく。
上品で上質な物語です。登場人物達の心の揺れや眼前に見えるかのような風景の描写が程よくリズミカルで非常に心地好く、終始良い気分で読み進めることが出来ます。
真咲が男性なのか女性なのか最初どちらなのかさっぱりわかりませんでしたが、それが逆に印象的で心に残りました。兄が死んで声をなくした後に彼女がせつなと出会い、幽霊屋敷と呼ばれる坂の上の家に住み始め、それから次第に変わり不思議な体験を経て、やがて自身を再び受け入れ取り戻すラストまでは読んでいてとても充実した時間を送ることが出来ます。
時にあらわれる人の残酷さの描写までもが何処かあたたかく感じられ、作者の人に対する大切な“何か”を感じ取ることが出来ました。
読後はあたたかく何処か爽やかな気持ちになります。読む人の心を洗ってくれる、良い作品です。