しずく
さようなら、愛しいひと
古くからの言い伝えが残る故郷の村を離れ、都会で一人暮らしをしながら高校に通うさやかには、誰にも話すことのできない大きな秘密があった。
彼女の母は、不安そうな目をして念を押します。
「成人までは、あなたの好きなように生きなさい」
「ただし、必ず帰ってきなさい。本当のあなたとして」
運命に束縛された自由の中で出会った、一人の少年へと揺れ動く心を必死で抑える主人公の想いが切なく、それは彼女が成長していく全てのシーンで、悲しくも愛しい感情を引き起こします。
恋人との幸せな日々。
出会った時から知りえた悲しい別れ。
愛しい人を犠牲にしても、守り続けるべき使命。
それら全てが重なりあいながら、物語は、優しい「さようなら」へ繋がります。
さやかの選んだ道は、女性が生きていく強さを感じずにはいられません。
物語を通して流れるのは、肌を潤す霧雨のような美しい言葉の表現。
胸がつまるような、繊細で愛しい日々です。
きれいなことば。
きれいな色。
きれいな人。
どこかほっとしたい時に体に入れるならば、小雨さんの透き通った物語をどうぞ。