中見世の中級遊女である莉乃に恋した、呉服屋を営む八柳要のお話です。
田舎のある農家の娘だった私は、お金と引き換えに吉原に連れてこられた。
何歳の時だったか、いつの事だったかはよく覚えていないが、季節が凍えるような冬だったのは覚えている。
吉原大門の前にあった坂の、見返り柳が枝ばかりだったから。
温かくなったら、どんな花が咲くんだろう?
そんな事をぼんやり考えながら、私は吉原大門を潜った。