アオイ
一途な恋と悲しい結末。深い内容と構成に、どんどん引き込まれていきました。
主人公孝之の目線で綴られる十年間の長い恋と罪深い行いが、過去と現在を交互に描くことで表されています。
図書館で孝之の読む本を探してくれる美穂と資料室で孝之の進路のために資料を探してくれる美穂の言動が重ねられていたり、
食卓の唐揚げに、康介との仲直りと孝之の大学合格の思い出が重ねられていたり、
物語後半で、由佳子と康介が住んでいたアパートで泣く孝之の場面で、由佳子と孝之の初対面を思い出させる書き方がすごく深くて印象的でした。
作者様は「読者に嫌われるような主人公」を作り上げる事を目標として書かれたそうですが、それが完全にクリアされていました。
美穂が孝之に妊娠したと伝えた時の文章で《答えを聞きたいという美穂の願い「だけ」を叶えてやる事にした》という部分がありましたが、ここでは冷徹になった孝之の心理が強烈に表れていて怒りを覚えました。半面、由佳子への恋心を我慢したり胸の痛みを隠してきた末の感情の爆発だと思うと、孝之に共感・同情もできて……。
悲しい出来事の連続だったけれど、兄弟の絆や美穂と孝之の友情が回復したこと、登場人物達の成長に引き込まれ読む手が止まりませんでした。