繭結理央
旅情サスペンス
都立高校の2年生・佐竹馨が、親友の池上瑞希とともに一路、箱根へと夏休み旅行に向かう。が、遊覧船で出会った謎の女からいきなりフロッピーディスクを手渡され、とある研究所に届けてもらうように依頼。「なんとかなる」と楽観的に飛脚を買って出た2人だったが……。
20年ほど前に書かれた作品とのこと。この当時の(著者と同年代の)私は高校生ぐらいか。ならば確かにフロッピーが主流だった記憶があるし、携帯電話も携帯小説も普及していなかった。というわけで、懐かしい気持ちを呼び起こしながら拝読。
およそ3日間を描いた短編。ゆえにアップテンポ、読者は否応なく馨の焦燥や不安を体感できる。また旅情モノとしての情報も適度に示され、醍醐味は揃っているように感じた。
ミステリーというよりはサスペンスだろうか。トリックの概念はないが、視えざる者からの切迫のプレッシャーがあり、やはり旅情サスペンスと呼ぶに相応しい。
弱冠だろう著者の、物語を紡ぎたい意欲が其処彼処に感じられる。当時の私にそんな意欲があっただろうか……なんだか、少し羨ましくなってしまった。