魔法使いをやめるまで

作者

そんなわけで、俺はいまだに童貞だ。




「魔法使いおめでとう」


至極真顔で祝福してくれた弟にいっそ笑ってくれと泣きそうになった俺は、今日でめでたく三十路突入だ。

三十歳まで童貞を貫くと魔法使いになる、なんて話を聞いた時に笑っていた自分を張り倒して今すぐ彼女を作れと強く強く言いたい。

モテないわけではない。バレンタインにはチョコを貰ってきたし、他の男子よりも話しかけられるほうだ。告白もされたことがある。自分から言うのは憚られるが正直俺はモテるほうだと思う。じゃあ、何故魔法使いにランクアップしてしまったかと言えば、俺がヘタレのチキン野郎だからだ。

思えば順調な人生だった。小中高と問題なく、友達に囲まれながら勉学に勤しみ、大学に進学してからはバイトを始め、一人暮らしを満喫しつつ就職活動も頑張った。比較的早い時期に内定を頂き卒論も徹夜しながら仕上げた。社会人として働き始め てからはそれなりにミスもしたけれど、着実にスキルアップしてきた。上司には気に入られ、同僚とも仲が良い。とにかく順調だった、何が問題だった。俺である。

なんでかなあ、なんて床を転がりながら反省したこともあった。そして反省したなりに、行動にも移した。しかし現状はなにも変わらず。もしかすると自分はゲイなんじゃないかと思ったこともあった。けれど同性を見ていたところで何も感じず、息子も反応しなかったため、その可能性は消滅した。適度に酒を煽り、仕事に行き、帰って一人寂しく夕飯を食べるだけの生活である。女っ気とは、だ。


まあ、そんなわけで、俺はいまだに童貞だ。