栗栖ひよ子

語り部の謡う御伽噺
山々の作る稜線。紫色に染まる夜明け。触れられるくらいに濃くつめたい夜の空気。

懐かしいと思える景色を描きたかった、とあとがきで作者様が仰っていましたが、田舎町で育った私にとって、この作品に出てくる景色はとても懐かしく身近に感じられるものでした。

時代設定を明記していない和風ファンタジーなので、平安~室町時代くらいのお話にも感じられるし、自分の祖父母が幼かった頃くらいの時代にも感じられます。

作品に出てくる鬼がとても好きです。
寂しさと優しさ、高潔さを兼ね備えた人でないもの。
物の怪というよりは、天狗や神様に近いような神々しさを感じました。

人間でないものと知り恐怖を覚えながらも、自ら鬼に歩み寄ることのできた雛。
そんな、自分で見たもの、感じたものを大切にできる雛にも、お母さんと同じように、きっと「声」は聴こえるようになるんじゃないかな、と思いました。

小さい頃に聞いた昔話のような、「こんな物語がどこかで本当にあったのかもしれない」と思わせてくれるような作品でした。