栗栖ひよ子
世界は一人一人の想いで動いている
ファンタジー小説を読むとき、書くとき
は、世界観のきらびやかさやストーリー
に目がいきがちですが、大切なのは「人
の想い」ではないでしょうか。
ファンタジーでも、そこに生きる人の想
いに共感できなければ、その人たちに血
が通っていなければ、それは作り物の世
界になってしまう。
この作品を読んで感じたのは、登場人物
が物語を進める上での駒ではなく、それ
ぞれの意思を持って動いている、という
ことです。
一見悪役でも、その気持ちにも行動にも
確かな理由があって心を動かされるし、
主人公の行動でも、悲しくて止めたくな
ってしまうものがある。
何が罪だったのか、どこからが間違いだ
ったのかなんて分からない。
でもこの作品のラストは、そんな気持ち
をすべて昇華してくれるような清々しい
ものでした。
すべてを失ってしまったら、その先には
何があるの?
――そこには、再生と、希望が。
あえて読者の想像に委ねるラストに、こ
の物語の希望を委ねられた気持ちになり
ました。