森本万葉

悲しい罪とその先に開かれた未来を臨む物語
現実世界を生きる少年ユナが夢の世界の青年ジェスの記憶を追っていくという形で少しずつ物語の全容が明らかになるストーリー。
日常ひとつひとつの動作に対して五感に訴えかけるような細かな描写が書き込まれているため、空気の流れや、温度感、手に触れる物の質感といった生活の雰囲気がとても身近なものに感じられました。途中夢と現実の狭間でゆらぐユナ少年の浮遊感がその緻密な情景の描写により如実に表されていたと思います。
世界観もとても美しく、ラナトゥーンの金色の世界を表現した箇所はどれも息を飲むほどです。
しかし、この物語の見所はそれだけではありません。一人一人の心持ちに合わせて見えてくる景色が違うこと、そして、その思いがどう交差し、どうすれ違ってくるかというところにも目を向けていただきたいです。
その一人一人の思いを罪と呼んでよいのだろうかともどかしい気持ちになること間違いなしです。それにも関わらず、ラストがなんとも清々しく思えたのは、この物語を通じて語り手のユナの心の変化に由来するものなのでしょうか。明記されていない未来に希望を感じました。
素敵な物語をありがとうございます。