あらすじ
慶応三年旧暦十一月、京都で起こった坂本龍馬の暗殺。この事件の翌年、徳川幕府はその三百年の歴史に幕を閉じ、「明治」という新しい時代が幕を開けた。
はからずも、新時代の到来を誰よりも望み、新しい日本と共に歩み出そうとしていた龍馬の死の直後に、皮肉にも日本の歴史は大転換を迎え、国際国家として歩みだしたのである。
その歴史の転換期の最終年、慶応三年にこの世に生を受けた同い年の若者たちが、東京と名を改め、人も街並みもそして考え方も……何もかもが新しくなった大都会の片隅で出会う事から、この物語は始まる。
明治維新から時は経ち、明治十八年、セクハラ警察署長を偶然にも同時に退治することになった、坂本龍馬の遺児「ジュニア」、若きジャーナリスト「ガイコツ」、薙刀の美少女「千鳥」は、その後、怪しげな壮士たちにつけ狙われる様になる。
賊どもとの関わりもなく、その目的も分からない彼らだが、彼らはひょんな事から自分たちが妙な縁によって結ばれていることを知る。
ジュニアは父である坂本龍馬が暗殺された当日に産声を上げている。母親は当時京都で繁盛していた写真館の娘で、龍馬とはそこで知り合い、彼女が猛烈にアタックする事で結ばれたのだ。
龍馬は生まれてくる子を楽しみにしていて、まだ見ぬ我が子を「ジュニア」と呼んでいた。そして、師である勝海舟に手紙を書き、同じ年(慶応三年)にすでに誕生していた海舟の娘「千鳥」と婚約する事を切望し、海舟も快諾していた。
一方、ガイコツは、四国讃岐でやはり慶応三年に誕生。東京に上京して、新聞、雑誌の編集・発行者としての道を歩もうとしていた。
そんな彼は四国(讃岐)出身ということで、(明治14年連載・出版)された坂本龍馬の伝記「汗血千里の駒」を連載中から読み、出版された時もいち早く読んでいて、一つの「疑問」を持っていた。
「何故、坂本龍馬は刀を抜かなかったのか?」
(「汗血千里の駒」の中で龍馬は暗殺犯の刃を鞘から抜いていない刀で受けるシーンがある)
いくら急襲されたとは言え、千葉道場免許皆伝の腕前である龍馬であれば刀を抜いて応戦することは出来たはず。
もちろん伝記「小説」の中の事ではあるから、果たして真実はどうであったかは分からないが、聞けば作者の坂崎紫蘭はまだ健在である龍馬ゆかりの人々に直接会って取材をしているという。なれば、龍馬の最期も現場に駆けつけた海援隊の仲間からの話を聞いているだろう。(海援隊の面々は、重傷を負っていた中岡慎太郎の口から直接暗殺時の様子を聞いている)
小説を盛り上げるために、龍馬が刀を抜かなかった(抜けなかった)事にする必要はないだろう。となれば、少なくとも刀を抜いて応戦すれば、怪我は免れなくとも、死は免れたのではなかったか? なのに、何故龍馬は刀を抜かなかったのか? ということを、ガイコツはつらつらと考えていたのである。
そして、つけ狙ってくる壮士と、その親玉である「虎道」と名乗る男の狙いが、その龍馬暗殺時の愛刀「吉行」である事を知ったガイコツは、ますますその「疑問」に没頭する。
女子師範学校に通う千鳥は、その薙刀の師匠で学校の舎監でもあるサナ(千葉佐那)に、海舟が勝手に龍馬と約束した婚約者が、坂本龍馬の遺児「ジュニア」である事を話す。
驚くサナ。実はサナはかつて若かりし龍馬が江戸に出て剣術修行に励んでいた桶町千葉道場の娘で、当時龍馬と婚約していたと噂されていた。
ジュニアは、京都生まれの横浜育ち。写真館というつながりで、横浜の写真師の草分け、下岡蓮杖の元で、外国人向けの写真のモデル(子供から青年、果ては女子にいたるまで、様々なコスプレをして対応していた)や、更にレンジョーが次から次へと仕掛ける「事業」の片腕として飛び回っていた。
レンジョーが浅草に拠点を移した頃、ジュニアの行方を探していた海舟と出会い、婚約の話を聞かされるのである。
千鳥に街中で一目ぼれしたキンちゃん(夏目漱石)は、後をつけていたことを千鳥から糾弾されると、しどろもどろになる様な青年だったが、彼もまた慶応三年生まれ。後々に愛ネコのクロと共に、千鳥の窮地を救うことになる。
ジュニアは蓮杖や街の有力者鹿島清兵衛と共に、浅草でパノラマ館なる興行を計画していた。その設計担当の学生、ケイジロー(山下啓次郎)も慶応三年生まれ、さらには父親は元薩摩藩士で、かの西郷隆盛とも懇意にしていた。
各々、新しい体制のもとに動き出した世の中で忙しく活動をしている、そんなある日、虎道率いる壮士たちは、吉行が海舟の元にあることを知り、千鳥を誘拐して海舟を脅しにかかる。
その程度の事で動揺する海舟ではなかったが、この一件に足を突っ込んでいたガイコツは、ジュニアと共に壮士たちを追撃する。
一方、誘拐拉致された千鳥の行方を、何とキンちゃんが追い始める。彼は以前拾った千鳥のハンカチーフの匂いを嗅いだクロと共に追跡を始めたのだ。合流したサナの協力もあって、維新後空き家となった大名屋敷群の中で幽閉されていた千鳥を発見した。
しかし、間一髪そこから逃走した虎道たちは、逃走の挙句、浅草のパノラマ館に決戦の場所を移した。
ジュニアたちは屋敷跡で捕獲した壮士の口から、虎道の狙いが、かつて龍馬が遭遇した「いろは丸」の海難事故の時に積んでいた軍資金の行方にあることを知る。その秘密が最期まで抜かなかった吉行に隠されている、と。
しかし、パノラマ館に海舟が持参した「吉行」には、もっと違う秘密があった!
パノラマ館に蓮杖が仕掛けた様々なカラクリの中で、彼らの最終決戦が始まった。
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