いなくなるのだ、と思った。
遅かれ早かれ、このひとは私の前からいなくなるのだ。
考えただけで泣きそうだ。
次の場所へ行くことに不安はないよ、と話す君の顔を見たいのに、前を向いて運転するしかない私は固まった思考で曖昧な返事をした。
必要としているのは苦しい気持ちになってしまう時間のなかの、世界が一瞬で変わるみたいな君の存在で、離れてしまっては意味がないのだ。
どうにもなれない私が君の大丈夫、だけでは大丈夫になれないように、今ここにいる姿形にだけ縋って手を取ることや柔らかさや体温がなくなってしまえばもう、きっと終わってしまう。
ステータスや自信を得るための君の人生のなかの一部分のまま、今の私のまま、どうか今の君のままでいて欲しいと伝えることはできない。
ひとりのひとりのひとりぼっちを変えてしまったら、私はもう私じゃなくなってしまうのに。
幾度となく現れるがんじからめの夜、もうここにいないあのひとだけが、君の知らない私の人生の全てなのだ。
だから君がここにいなくなってしまったら、それはもう箱の中にしまうしかない。