初夏なのではないかと思えるほどの気温のなかで真綿で締めるような坂道を登る。
もうずっとあのひとからの連絡はない。
答えを間違わないようにと思いながら、ホワイトデーだの誕生日だのと気を回してくれる男の子に申し訳ない気持ちになる。
素直に喜べたらいいのに。
でも私は生まれてしまったことが苦痛だ。
気を回されなければ悲しい気持ちになるくせに。
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今日は急いで帰るね、と言われてしまえば置いていかれるみたいな気持ちになって、一緒に帰らないの?と縋る。
いいよと言われても自己嫌悪でやめておこうかなんて連絡までして、一緒に帰ろうと言わせて更に自己嫌悪、である。
概ね優しくしてくれるこのひとの、撫でてくれる手のひらの熱さがいつかなくなってしまいませんように、と祈る。
なるべく長く一緒にいられるようにと、今でも思ってくれているだろうか。
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面倒な他人とのやりとりにうんざりした気持ちで煙草ばかり吸っている。
ベッドで眠る猫を眺めながらこのひとが日がな一日ゆうらり過ごしていることを羨ましく思うけれど、猫には猫なりに思うところあるのだろうとは思う。
伏せられたびい玉みたいなヘーゼルの眼の見つめる先には何もないけれど。