あらすじ
私が夢を見て、蝶になり、蝶として大いに楽しんだ所、夢が覚める。果たして私が夢を見て、蝶になったのか、或いは、蝶が夢を見て私になっているのか。
槿の花が咲いている…白き、小さな花が。彼女たちの声は、まだ聞こえない。
大正十二年、夏。
日下龍之介。彼は触れた者の心が聞こえてしまう力を持っていた。そのため、恋人や友人の些細な小言まで、心にささり、心を閉ざし、一人、書をしたためる日々を送っていた。そこへ幾度となく、探偵所の所員として誘いに来た西園寺公望。日下は自らを勧誘した理由を聞くため、重い腰を上げる。時の元老『西園寺公望』が営む探偵事務所。所員は三名の女性『胡蝶』、『胡風』、『胡蘭』。
公望は、自分は陰陽師であること。負の心が飽和し、浅草に聳える凌雲閣、通称浅草十二階に集まり始めていること。その負の心が具現化し、常世の者と呼ばれる者が召喚され、日本を滅ぼそうとしていること。そしてそれを食い止めるために、日下の力が必要だということを告げる。
状況が飲み込めず、半信半疑であった日下だが、胡蝶とともに、浅草十二階に赴き、常世の者と対峙することとなり、状況を把握する。
常世の者とは、かつて公望の師であり、ハルビンで銃弾に倒れた、『伊藤博文』を筆頭に、幕末の寵児『坂本龍馬』、大正の女性解放運動家、平塚らいてふこと『平塚はる』。彼らは、常世と現世を繋ぐ、外郭十二門の開放を目論んでいた。
日下は他人と、自らの心の乖離に苛まれながら、心とは何かと逡巡していた。そんな中、所員の胡蝶、胡風、胡蘭は、公望の式神として召喚され、開かれつつある常世との門を閉ざす為の楔だと告げられる。人と変わらず立ち振る舞う彼女たち。日下は信じられなかった。彼女たちには心が宿っていたのだ。
偽りの心。式神に心を込めることは、ご法度であり、術者はそれ相応に心を蝕まれる。公望は、若くして亡くなった、実の娘達を模し、式神としたことで、愛するものを二度失う痛みに耐えねばならなかった。しかしその事実を胡蘭は知らなかった。死ぬために生まれた自分と、心を込めた公望。事実を告げることのできなかった、胡蝶、胡風。全てを恨み、探偵事務所を後にする。
心を弱らせた胡蘭に、常世の者の魔の手が伸びる。常世の者らは、胡蘭を外郭十二門を開ける礎とする為、捕らえるのであった。
それを知った日下、胡蝶、胡風は、胡蘭の救出と、門に楔を打つ為に、浅草十二階に乗り込むのだった。
白き、小さな花、それは槿の花か。彼女たちの声が、微かに聞こえはじめる。
このシナリオは「式神のみる夢」(舞台脚本形式)を元にしております。