阿川博士とタイムマシン

作者たいちょ

あらすじ

2100年、夏。

有線電話、扇風機、川で遊ぶ子供たちと蝉の声。

長野県北安曇郡、中部山岳国立公園跡「四重村」。国のテスト地域として電力と環境のバランスを確認、調査している。しかしその為の制限によって、その様相は大昔の田舎を想起させた。

時生はいつもの森の中で夢を見ていた。傍らには蔦が絡まり錆びれ、何十年も放置さ続けた車が1台。半年前から傍にいる雫は、時生に想いを寄せているが、時生は高校卒業と共に、8年前行方不明になった妹を捜す為、村を出るつもりでいた。

妹は熱波と呼ばれる、このテスト地域で数年毎に起る、摂氏数百度と言われる熱風にさらされたと思われているが確証はない。熱波の原因は不明、発生場所は村の中心である、発電所の敷地内に限定されていた。

「過去屋」と揶揄される駄菓子屋に寄り、初老の女性店主と会うさ中、発電所から熱波発生の警報が響いた。

学校に避難する村民。炎に焼かれる白昼夢を見る雫。妹と共に2歳だった自分を置き去りにした母を思う時生。熱波はこともなげに去り帰路に着く。

時生は、あの場所の一番高い所から、何かを必死に探している夢を見た。妙だと感じ、その場へ行くとあの錆びれた車が新車のようになっていた。近づくと車は機械音を上げた。驚いた時生は、その場から逃げるように去る。その後、車から降りる人があった。その人物は手紙をワイパーに挟んだ。

雫もまた、この場所へやって来た。新車の様になっている車を見て、時生が洗車したのかと思ったが、それは無理だとすぐに否定した。彼女はワイパーに挟まる「雫へ」と書かれた手紙を手にする。時生からだと意気揚々と文面を確認するとそこには。

二次元コード。彼女がそれを認識すると、脳は膨れ、彼女の中にあったであろう記憶のファイルが露わになる。全てが彼女に再生され理解する。「4年後の2104年3月17日18時33分ここで。」最後の文面を間違いなく発すると、彼女はその場を去った。

母との最後を夢に見た。今しかないと、荷物を持ってあの場所へと急ぐ。車で村さえ出られれば。その場に着き、ドアに手を伸ばす時生。機械音が鳴り自然と開くドア。中は機材だらけで窮屈だった。急に機器が灯り始め機械音が響いた。「おかえりなさい、阿川博士。」それが合成音声だという事は理解できた。車は言う「時間点移動を開始します。目標は2104年3月17日18時37分、現在から、32145.883時間後となります。最小構成時元周期はおよそ1.078。」意味は分からなかった。加速していく無機質な音達。やがて音が止まり「ドン」という衝撃と共に時生は黒に飲まれた。