これは、とある男女の高校生が、ひと時の間育んだ、恋にも満たない友情の物語。

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※この作品は『誰でもない』をシナリオ化したものです。
 https://maho.jp/works/15591074771453024943

物語全体のあらすじ


 舞台は、現代日本のとある高校。家庭環境に恵まれない男子高生・富吉と、内部障害を抱える女子高生・沙樹。鬱屈とした日々を送っていた二人が互いの存在を認識したその時、物語は動き出す――。


 あまり学校に行かず、いわゆる不良と噂されていた富吉がある日、気まぐれに登校してみると、通りがかった東校舎の階段の上から大量のトイレットペーパーが降ってくる。落とし主は同じクラスの沙樹。どうやら彼女は、他の女生徒たちからの嫌がらせで、一人でそれらを反対側の西校舎まで運ばされているようだった。


 数日後、富吉が久しぶりに教室に顔を出すと、それぞれグループを作って騒いでいる周囲とは裏腹に、沙樹は自席にポツンと一人で座っていて、どうやら浮いた存在であることがうかがえた。自分同様、集団に溶け込まない沙樹に興味を示し、富吉はそれ以降、何かと彼女を構うようになる。


 休み時間に富吉が沙樹の席まで遊びに行ったり、グループ学習で同じ班になったり。等身大の高校生らしく日々を送っていくうちに、「ねぇ、あの雲、縫いぐるみの綿みたいじゃない?」「とめきちくんは、何か野望はある?」などといった、沙樹のどこかズレた発言の数々に、富吉はますます彼女に惹かれていく。


 ある時、沙樹を放課後に遊びに誘った富吉は、彼女から病気を理由に、それを断られてしまう。病気を公表していないことでの弊害について、意見がぶつかり合う二人。けれども、喧嘩別れの状態は互いに本意ではなかったため、仲直りをした上で改めて遊びに出かける。


「誰でもない人になりたいな」

「へ?」

「わたし、誰でもない人になりたい。そうすれば、死ぬのを怖がらずに済むかもしれないじゃない?」


 遊んでいる最中に、また意味深長な発言をする沙樹。富吉にはその意味ははかり兼ねた。けれども、何か重要な意味でもあるように感じられた。その直後、沙樹の容態が急変、彼女はそのままこの世を去ってしまう。


「わたし、最期に貴方に会えて、少しは幸せ感じて死ねるよ」


 そう言い遺した沙樹の表情は、富吉がこれまで見た中でも一番の笑顔だった。沙樹の死に、命の儚さを知る富吉。だが同時に、生きてさえいればまだやり直せることも彼は悟る。


「俺、もっかいしゃんと、胸張って生きてみようと思う」


 遺された富吉は、彼女の最期の笑顔を胸に、前を向いて歩き直すことを誓うのだった。





※この作品は『誰でもない』をシナリオ化したものです。

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