毎年初雪の日には親友の息吹(いぶき)が訪ねてくると決まっている。

 息吹を出迎えるため、勇生(ゆうせい)は古い雑誌とゲーム機を出し、カレンダーを隠す。
 これが本当に息吹のためになるのだろうかと、ためらいながら。

 切なく美しい友情の物語。



 

 とある田舎町で暮らす大学生、勇生。

 今日は「年に一度」親友の息吹がやってくる日。勇生は息吹のために「カレンダーや新刊書籍を隠す」。


 息吹との出会いは小学生の頃。

 勇生は子供ながらに田舎のさして希望もない暮らしに倦んでいた。

 ある日やってきた転校生息吹は、男なのに髪を伸ばしている変わり者だった。

 変わり者である息吹を初めは避ける勇生。

 しかしそれがヘアドネーションのためだとわかってから、自分の視界を広げてくれる息吹に惹かれていく。


 中学、高校とほとんど一緒に過ごし、友人以上、恋人未満のような、代えがたい関係となっていく。


 そして卒業を控えたある日、息吹は事故に遭う。


 それでも、息吹は「毎年勇生の元にやってくる」。

 勇生は死んでまで律儀に約束を果たそうとする息吹のために、「カレンダーや新刊書籍を隠し」ていた。


 息吹が、自分が死んだことを悟ってしまうと、もう来てくれなくなってしまうのではないかという気がして。

 自分が息吹を引き留めてしまっているのではないかと悩みながら、勇生は今年も「カレンダーや新刊書籍を隠す」

 ことしかできないのだった。