危険な〝魅了の異能〟を持つ寧々に、突然舞い込んできた政略結婚。
その相手は『冷酷非道の軍神』と呼ばれる美貌の青年――四凶と恐れられているあやかし、饕餮(とうてつ)である紫苑だった。
しかし。屋敷で寧々を出迎えたのは、婚儀にも姿を現さなかった旦那様の残した契約書だけで……。
【壱、私の許可なく外出する行為を生涯禁ずる】
【弐、私の許可なく文を交わす行為を生涯禁ずる】
【参、私の許可なく会話する行為を生涯禁ずる】
無慈悲なその言いつけを守り、使用人まがいのことをして過ごす日々。
けれども。
名ばかりの妻が、世間で『軍神を誑かした毒婦』『捨てられた花嫁』と呼ばれているのを知っている。
旦那様にはもっと良い人がいるはずだ。そう、美人で完璧な姉のような……。
そうして、結婚三年目の春。
旦那様が隣国との戦から帰還したと知り、寧々はとうとう離縁を申し入れることにしたのだが――。
「四凶と呼ばれる俺に怖気づいたか? 離縁は認めない。君が泣いて許しを乞おうとも」
冷酷無慈悲な旦那様は甘やかに目を細め、頑なに頷こうとはしなかった。