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春里舞花

悪魔と天使 episode1




車から降りた時には、周りには物騒な鉄パイプや金属バッドを持った男たちが揃っていた。まだ年齢は自分たちと変わらないか、少し上、下の人間もいそうだ。



白髪に、ひとりの男が鉄パイプを渡した。



何が始まるのか私はずっと理解出来ぬまま、ニタニタと面白がるように笑う余裕綽々な彼らの後をついていくだけ。




彼らは階段を上がり、ひとつのドアの前に立つ。そして、先頭に立っていたふたり顔を見合わせてニタリと笑った。



「「生きて帰れるかなあ?」」


そう言った双子は、ガアンッッ、と音を立ててドアを蹴破ってそこへ立った。

中には、悪趣味なスーツを着た大人たちが何人もいてこちらを見て目を見開く。



「「はあい、おにーさんたち」」


ふたりはそう言って、手を上げた。



「なんだテメェ!!どこから沸いた!!」

「表でうるせえのはテメェらか!」

「ガキの遊び場じゃねぇんだぞ!!」

怒声が飛び交い、空気が震える。私は彼らの背後でその声にビクッと身を縮こませていた。


なんで、こんなところに連れて来られているのか、なんでこんなことになっているのか、理解し得ぬ。



ふたりはそんな言葉を諸共せず、中へ足を進めていく。部屋の奥にあるデスクに表情一つ変えない男が足を上げて、座っていた。



「テメェら、己斐のガキか」


低い声に私は体が固まった。誰ひとり身動きせずに、その様子を見守っている。



「ご名答。」

「随分暇そーじゃん、お仕事捗ってないの?」


けたけた笑うふたりに、男は眉を顰めて睨み上げた。


「こんなところに白蓮のガキ共が何の用だよ。」

「何の用?笑うね、ジジイから聞いたよ。危ない橋ばっか渡ってる割に、上納金は少ないし、サツがうろちょろする程度には、やることやってんだろ?」


黒髪が男に向かってそう言う。ピクッと周りの男が動いて、ふたりの方へ寄ろうとしたが男が手を挙げてとめた。



「それが?そんな粛清される程のもんじゃないだろ?俺たちを散々見過ごしてきたのに、今になって咎めるのか?」

「あはっ。それはさァ、僕らの気分が変わったの」


そう笑ったのは白髪で、その言葉に男が眉を顰めた。



「ガキのお遊び集団に何が出来る?」


低い男の声に、彼らはニタニタ笑うばかり。恐怖心というものをどこかに捨ててきたのかと疑う。



「馬鹿だなぁ、俺らはただの特攻隊だって。俺らが上手く掃除できなけりゃァ、家が動き出すに決まってんだろ?」

「見定められてることに気がつけって。」




寧ろ彼らはこの状況を楽しんでいるようにすら見える。異常だ。


「「それとも、ガキ相手にしっぽ巻いて逃げ出すかぁ?オッサン」」


その言葉と同時に、ふたりの後頭部に黒い銃が当たる。それに私は目を見開いて後ろへ一歩下がった。


「くっくく、物騒なもんお子様の頭に当てんな。下ろせよ」


「それとも、早撃ち勝負する?どっちの頭が飛ぶのが早いかなぁ??」


でも黒髪もまた、目の前にいた男の額に銃を当てていた。白髪はニタニタ笑って、後ろの男たちを横目で見る。


なんでそんなものを持っているのか、どうして平然としていられるのか、目の前の状況に膝が笑う。



双子の後頭部に銃口を定めた男たちは、渋々と腕を下ろす。男は、目の前に降ろされた銃を見据えてから、黒髪の方へ目を向けた。


「交渉の条件はなんだ?」

「条件?条件なんてもんは無いよ。」


黒髪は薄ら笑ってそう言った。男たちは、ドヨッと後ろでどよめいて、一瞬の混乱がその場を駆ける。



「「お前らはもう詰み。」」




そう双子が笑ったと同時に、白髪の持っていた鉄パイプが男に向かって振り下ろされた。黒髪は天井に向かって高々と銃を掲げて、引き金を引く。



バアンッッ!!



まるで競走で全員が走り出すかのように、その音が合図となった。




「アハッ!!ヘマすんなよ、お前らァ!!」



黒髪がそう笑ったと同時に乱闘が始まった。血が飛び、鈍器で殴る音が聞こえる。私の後ろにいた何十人もの人間が狭苦しいその場に入っていく。



「…、…」


私は後ろへ後ずさりして、廊下の壁について腰を抜かした。座り込んだまま、目の前の光景を呆然と見ていた。









地獄だ。












帰って来たのは、真っ赤な悪魔だった。黒いシャツも白いシャツも、どちらも赤く染っていて



「さあ、ズラかるぞ〜」

「怪我人担いでけよ〜、適当に車乗せてやれ」



向こうから先程と変わらない余裕綽々な表情で歩いてくる。


廊下に座り込んで呆然と見ていた私の腕を掴んで走り出す。行きとは違って、バイクに跨り、私を後ろへ乗せる。そのまま、勢いよく走り出した。







「くくくっ、くく、」

隣を走っていた黒髪が笑い出す。それを見て、私の前にいた白髪も笑った。


「あはっ!」


ふたりは顔を見合わせてから、大きな口を開けて




「「アハハハハハハハッ!!!死ぬかと思った!!」」



そう言った。





真っ白な服は、赤に染ってそれが私の服に付く。白いブラウスも赤くなって、私はまるで自分も染まるみたいだと思った。




「あはははははっ!!あーー楽しかった!!」

「いい暇つぶしになったなぁ!!」


ふたりの声は夜に響く。月だけが見つめるその空間で、彼らは笑っていた。











私は彼らを悪魔の化身か何かだと思った。














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