森尾月子

もりおつきこ

何気におばちゃんです。
今まで書いてきた書き物を残したくて登録しましたが
どうしたらよいかわからず、
別サイトより手直ししながらUPしています。
妄想ものです。夢物語です。

YUZURU 187

「・・・・・・あの・・・・・もしもし?橋本さん?」
「はい、橋本です。今原田さんに電話を入れていたところだったんです。
 なかなかつながらなくって。翔太は?翔太は?原田さんも大丈夫ですか?」
「すみません、あたしが離れている間に起ってて。電話?電話ですか?かけてたんですか?」
「ニュースが流れててそれが翔太のいる病院だと知り大丈夫かと心配になって何度も。」
「すみません、あたしが病院を離れ夕飯を食べに出てた間に事故が発生してたらしく帰ってくると
 病院がパニックになってて。」
「でもよかった原田さん無事だったんですね。翔太は?そばにいるんですか、翔太は?」
「あの・・・・・先生の話だと夕食が運ばれてきたときにちょうど爆風が吹き込んで運んできた人と
 一緒に飛ばされ壁に激突したらしいんです。
 今ストレッチャーに横になっていますが気を失ったままで。橋本さん・・・・。」
「気を失ったまま?」
「あの・・・・・すみませんあたしが離れたばっかりに翔太君が・・・・・。」
「原田さんのせいじゃない!何を言っているんですか!事故なんでしょう?
 そこにはたくさんの同じように怪我をした人がいる。
 あなたがいなかったからと言って他の怪我人はどうなるんですか?
 あなたのせいじゃない。」
「・・・・でも・・・・。」
「原田さんが泣いていても何にもできないでしょう?
 それよりも凛とした原田さんが横にいるから翔太は前を向くことできたんですから
 だから泣いてはいけない。わかりますか?原田さんはとにかく翔太をお願いしたい。」
「・・・・・あの、あの、橋本さん。」
「はい。」
「さっきこちらの病院の人と話をしてたんですが、
 怪我人が多くて手が回らずに気を失ったままの翔太君が寝かされていたんです。
 で、大久保先生に・・・・・あたしの怪我の担当医の先生に連絡を取りました。
 橋本さんこれから動けますか?」
「どちらに?」
「元の撃たれたときのあの病院です。先月まであたしが入院していた病院。」
「わかる!わかります!で?」
「あちらから移送車が来るのでそれであの病院に移動します。あたしと一緒に。
 病院に着くまでは携帯を切らなければいけなくなるので電話を入れたんです。」
「わかりました、すぐに!すぐにそっちに向かいます。大久保先生という人を尋ねたらいいんですね?」
「ほかの患者さんもできるだけ受け入れたいと話をしておられたので混雑すると思いますが
 あたしも一緒に行くので・・・・。本当に・・・・・・。」
「とにかくあっちで会いましょう。私から、社長さんには連絡を入れるよ。
 きっと彼らも情報を欲しくて連絡をしまくっているだろうから。」
「お願いします。本当にすみません、お願いします。」


電話を切った後不在着信を確認、携帯の方には不在着信はなかったのだがメールがいくつか届いている。
電波が弱いことと混雑している通信網で着信しきれなかったのだろう。
受信したメールにはどれにも電話がつながらないのだけどどうかしたのかと、
そういう風な言葉で始まっていた。
とりあえず着信しているメールの共通の人間には一斉送信でメールを送った。




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 このメールを読んでいるということは、あたしの信用する人として受け取ってくれたことを信じます。
 この後次のメールを受信するまでは一切携帯もメールもあたしはできないこと、
 できる場所にいないということを理解していてください。

 今あたし弓弦は翔太君の看病という理由で付き添っていましたが、ちょっと離れたすきに
 AA病院でヘリの事故で大変なことになっていました。
 ここでわかっていること3点。

 1、橋本翔太君は命に別状はありません。しかし、事故に巻き込まれ
   気を失っている状態です。

 2、このAA病院自体がパニック状態になっています。
   このままでは翔太君の怪我も治療もできないまま
   応急処置しかできない状態なので、今より病院を別の病院に移ります。

 3、表にはマスコミもたくさんいるため翔太君の移送も
   判明すると大騒ぎになると思うので
   移送先は翔太君自身が意識を取り戻し次第ご連らくします。


 もちろんあたしは大丈夫。だから心配しないで。
 次翔太君が気が付いたらその時点でメールを送ります。
 皆さんがパニックになってしまえば周りの人々が気が付いてしまい
 さらにパニックを起こしてしまいます。
 なので落ち着いてメールを待っててください。

 あたしも翔太君も命には別状はないです。
 このメールを送った後携帯の電源を落としますのでその点十重にご了承ください。


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メールを送る前に翔太と並んで写真を撮り添付して送った。
とにかくこの混乱の中ではまともに自分も返事をしきれないと思い、メールを送りつけた。
しかし川上社長と山本社長には別にメールを送った。



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山本社長、そして川上社長。

 一斉送信の形でメールをお2人に送ってすみません。簡潔に言います。
 すみません、こちらもパニックなので携帯の電源をすぐに落とさなければなりません。

 AA病院のヘリの事故の件。
 旧館にいた橋本君も事故に巻き込まれています。
 怪我をしていましたがおい急所地はしてありました。
 あたしは食事に出ていたために巻き込まれずに済み怪我はしておりません。
 ただ、橋本君は気を失ったままなので少し心配なのですが周りがそういう人ばかりで。
 なのであたしから入院していた病院の大久保先生に連絡を取り状況を話したら、
 すぐに迎えに来て移送し治療すると言われました。
 このメールはその移送車を待っている間に打ち込んでいます。
 橋本君はあたしが付き添って数人の患者とともに大久保先生のいる病院へ移送されます。
 なので、あちらの方で会えれば幸いと思います。
 先に橋本君のお父様にだけは連絡を入れております。
 橋本さんも病院に向かわれていますのでその点もご連絡ということで。
 あたしには一切怪我はないので大丈夫です。
 このメールを読まれているときにはもうあたしの携帯の電源は落としてしまうので
 移送された病院にて会えればと、そう思っています。では、またあとで。


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メールを送った後すぐに携帯の電源を落とした。
まだ気が付かない翔太の横でひと時翔太を守るようにそばに寄り添っていたが
前を通る怪我をした人たちを見ると動かずにはいられない性分の弓弦は
我慢ならずに翔太からすんなにはなれない範囲で
包帯を巻いたりちょっとしたことを手伝い始めた。まだまだ搬送の車が来ない。
ピクリとも動かない翔太だけれど、呼吸はしているように思える。
手は暖かい。頬も暖かい。今にも気が付いて動きだしそうな横顔。
その翔太の足元でうずくまっている女性がいる。頭に包帯を巻いているのだけれど
血が止まらないのかうっすらとにじんでいる。
弓弦はそれが気になっていて、反対側でバタバタしている看護師に
替えのガーゼと包帯をもらい女性に近づいた。


「あの・・・・大丈夫ですか?」
「・・・・・大丈夫・・・・です。」
「血がにじんでいる。包帯を変えましょうよ。」
「でも、私よりもその彼の方がひどいわ。
 私は大丈夫、おとなしく座っているから大丈夫よ。」
「さぁ、彼はまだ気が付ないし気が付くと何かしら悪化するといけない。
 移送先に着くまで彼は気が付かない方がいいのよ。
 それよりもあなたの怪我も大したことなくてもきちんと清潔にしておきましょう。
 あなたも移送先に着くまで何事もあってはいけないんだから。ご家族が心配するわ。」
「ありがとう・・・・・ありがとうございます。」


翔太の横で自分もできることをと思い、その女性の包帯をはずし清潔なガーゼで血をふき取り
また新しいガーゼに化膿止めを塗り傷口に強く当たらないようにかぶせ包帯で固定した。
そして手を握りみんなみんな大丈夫と言い抱きしめると、また翔太の横に戻る。
数分のことだけれど、その間も気が付くような様子はなかった。

社長たちに送ったメールのあと携帯の電源を落としてから1時間がたとうとしていた。
まだ搬送するための迎えの車が来た様子はない。
不安な顔をして翔太の横にいる弓弦を見て小さい女の子が声をかけてきた。




「お姉ちゃん、どうちたの?」
「ん?どうもしてないけど?」
「ママと同じ顔してるから・・・・・。」



ふと目の前にある窓に目を移すと不安いっぱいな顔をしている自分い気が付く。
こんな時だからこそ、不安な顔をしてはいけないのに何やってるんだろう・・・・。


「お姉ちゃん?」
「ん?大丈夫、大丈夫だよ?だってお兄ちゃんが起きてくれないから心配でさ。」
「ユキちゃんのママもあっちでパパのそばにいるんだけどお姉ちゃんと同じ顔してるの。」


みんな一緒の顔をしている。暗く不安な顔。そんな顔をしてはいけない場所なのに。


「ユキちゃんのパパは?」
「怪我しちゃったの。で、ママが一緒にいてあげているの。
 `チチンプイプイ 痛いの痛いの飛んでいけぇ’って、
 ユキちゃんが怪我した時と同じことしてるの。」

その指差す先を見てみると旦那さんの手をさすり泣いているお母さんがいた。

「お姉ちゃんもおまじないお兄ちゃんにしてあげていたの?」
「そうだよ、早く気が付いてねぇっておまじないしてたんだよ。」
「寝てるの?起こさないでいいの?起きてくれないの?」
「ん・・・・たぶんねまだ起きる時間じゃないから起きてくれないんだけど・・・・。」
「ユキちゃんの目覚まし時計、トトロのメイちゃんが歌う`歩こう´がかるんだよ。」
「そうなんだぁ、一回で起きちゃうね。」
「お姉ちゃん、ユキちゃんと一緒に`歩こう’歌う?お兄ちゃん起きてくれるかも。」
「みんな大変だからやめとく(笑)ありがとうね、お姉ちゃんを元気づけに来てくれて。
 ユキちゃんってお母さんが呼んでいるよ。
 行かなきゃ、さぁお義母さんのところに行かなきゃ。」



「ママァ!ユキちゃん、`歩こう´歌いたいなぁ!」
「静かにしないとだめよ、パパ起きちゃうから。」




少し離れたところで親子話をしている様子が弓弦には微笑ましかった。
何気に翔太の顔を見てもうんともすんとも動きもしない。
不安ながらもそんな顔をすぁすれなければと翔太がいつか一緒に歌った歌を思い出し
そっと寄り添うそこで子守唄のように歌いだした。
やさしい声で、目が覚めるといいのにと弓弦の気持ちを込めてやさしく歌い始めた。
すると周りにいた怪我をした人が弓弦を見る。
本当にやさしい声で語りかけるように歌うその歌声は
こんな金杯した状況の中で本当に癒される歌声だった。
すると弓弦と反対側で怪我人を支えている女性がそのメロディーに乗っかるように歌い始めた。
振り返るとにっこりと笑い少し大きな声で歌い始めた。
すると行きかう人も一緒に歌い始めた、まるでこんなに大変な場所でも亡くなった人はいない
むしろ生きようと頑張っている人がここに集まっているのだ。だからこそ、の歌声。
弓弦の歌う歌声も次第に大きくなってきた。
何度か繰り返してうたうその歌は周りの人たちも一緒に歌える歌だった。
数度歌っていると、職員が連絡に来て搬送先別に移送車が到着したということで、
指示に従って場所を移動してくださいと伝えた。



翔太を含む8名が付き添いと一緒に搬送車に乗り込んだ。
送り出される時、8名分のカルテを持たされその場を離れて行った。
弓弦の携帯の電源が落とされて2時間ほどたった21時前のことだった。






夜の街を数台でパトカーに先導されながら車が走り抜けていく。
弓弦は翔太といっしぃに乗り込み、その横に座って外を見ていた。
通りなれた道、通いなれた病院までの道が見えると携帯を握りしめ気持ちだけが焦る。



「あの。」
「なんですか?」
「携帯を使っても大丈夫ですか?」
「もう少しですが影響のあるものはないので大丈夫と思いますが手短に。」




 `tururururur turururururu rurururururu´


「はい。」
「原田です。先生、もうすぐ着きます。」
「搬送車が遅れてすまなかった。もう着くんだな。」
「えぇ、もうちょっとで交差点です。パトカーが先導してくれているので早かったのかも。」
「んじゃ、こっちも救急入り口にスタンバイする。」
「お願いします。」




そんな短い会話のうちにも病院まであと少しの交差点を曲がった。
病院の入り口を警備員が通行中のすべてを停めて搬送車を優先で病院内に入れてくれた。
すぐに大久保たちが待っている救急入口にたくさんの看護師や先生たちストレッチャーなどが用意され
それを待ち構えている姿が弓弦にも見えた。安心したのか弓弦は泣いてしまった。

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