愚図

Lucy.


「簡単に口にしていい言葉ではないから、と思っている。それは約束になるでしょう?」


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いつも半角のクエスチョンマーク。
君の正しさ。
「貴方が好きで好きで仕方がなくて、どうしたらいいのか分からなくて、幸せ過ぎて怖いんだよ。」

私はそれをとても良く知っている。
そうして今のままの君を閉じ込めるために、だからいつも失わなければならない。


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時間ばかり気にする君と雨の中、私が帰った後普段通りの日常から逸脱することを恐がる。
いつもより高い指先の温度と君の苦しそうな顔。
私に依存しているという君の息苦しさと冷めた眼に惑う。

壊して欲しいと強請ってもそんな度胸はないよと宥められてしまって、寂しがって引っ叩いて噛み付いてくれと言っても微笑まれて、私は途方に暮れる。
左手の塵箱を撫でながら苦しそうに好きだと言う君の正しさや、偽善的な言葉が意味を成さないこと。
約束なんか破ってしまえばいい、という私を抱き寄せていなくならないでと懇願する。
「どうしたら貴方の不安をなくしてあげられるのかな。」
馬鹿みたい。


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本当に大切にしてるんだけど、と身体中にキスをしながら揺さぶられる。
どんなにゼロ距離になったって擦り合わせた肌に膜は出来なくて、離れてしまう身体を私は心底憎んでいる。どうしてちゃんとくっついていてくれないの。
この先を円滑にするために変わらなきゃいけないのだと君は言うけれど、そんなものに本当に意味があるの?
今しかないのはまた私だけなのか。
一体いつからすり替わってしまったのかな、と思いながら自嘲する。
私が君に話す言葉はいつも、あのひとの言葉だ。
君が私に話す言葉はいつも、私の言葉だ。
悲しくなって泣く。
縋りたいのは君に?あのひとに?


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それでも、である。
いつものことだ。
それでも、エレベーターが壊れて十四階まで階段で登っただとかふざけたメールに安堵して微笑む。
あのひとのなんでもない話がまだ私に送られてくることに安心して、きちんと満たされる夜。
もう明け方近くになる時間に返信をして、きっと返信は来ないのだろうと思う。(思いもよらず結局返信は来たのだけれど。)
どんな意図であろうとそっちで部屋を探しているんだというあのひとの、良い加減さに救われるのだ。
私を造るたったひとつの道標。
私が私であること。
きちんとひとりのひとりのひとりきりでいられる私だけの絶対。
あのひとを失ってしまえば、きっと私は砂の城なのだ。
触れた指先が跡形も無く消し去ってしまう。
私のなかの君を壊してしまえと願う前に。


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あのひとと同じでいたかった。
一つになれたらいいのに、と言うあのひとと。

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